従来型コールセンターでも実践可能!
“カスタマーサクセス”的な経営貢献施策
「いかに業績貢献し、プロフィットセンターになるべきか」はコールセンターをはじめとしたカスタマーサポートにとって、重要なテーマのひとつだ。顧客からのさまざまな問い合わせに対応し、VOC集約や継続利用のためのサポートを実践しているが、さらなる経営貢献を果たすべく、「カスタマーサクセス」の役割や手法を参考にできるのかを考察する。
openpage 代表取締役
藤島 誓也
カスタマーサクセスにおけるコミュニケーション設計のポイントは、「はじめから営業を行わない」ことだ。一般的には、業績貢献を優先すると、「製品やサービスを販売しよう」と営業トークからはじめがちだ。結果、「この製品にはこのような特徴があって、これだけの割引があり……」などと説明をはじめる。しかし、カスタマーサクセス部門での会話では、製品やサービスをうまく使いはじめることができ、定期的に活用したくなり、価値を享受できる、利用に満足している、リピートしている──このような、製品サービス体験の向上が中心となる。現在購入している製品がうまく活用できていなければ、さらなる追加購入はないという考えが軸にあるからだ。“顧客”が“うまくいく”から「カスタマーサクセス」なのである。
このコミュニケーション方法を参考に、カスタマーサポートでもカスタマーエクスペリエンス(CX)向上のためのコミュニケーションを実践する場面が増えている。具体的には、定期購入利用者へのフォローアップ電話などだ。購入初期段階のフォローアップは、カスタマーサクセスにおいては「オンボーディング」と呼ばれる。これは、顧客が購入後、つまずきやすいポイントや、満足度が高まる瞬間を事前にイメージして積極的にフォローを行うものだ。カスタマージャーニーを描いた場合、その過程で、ネガティブ体験を防ぎポジティブ体験を促進する案内を想定する。トークスクリプトに落とし込み、顧客から連絡がなくとも能動的に企業側から案内の連絡をする。これは、カスタマーサポートにおける問い合わせ対応でも、営業マンの連絡業務でもない、“カスタマーサクセス”のための案内だ。あるべき顧客体験を考え、真摯に顧客が成功するための案内をする。トークスクリプトの変化や架電目的の変化のトレンドとして注視すべきだ。
図1 カスタマーサクセスにおけるコミュニケーション設計
顧客と長期の関係を築く
この「カスタマーサクセス的な案内」とは、企業側から連絡するものだが、特定の何かを売り込む電話ではない。あくまで情報提供であり、プロフェッショナルやパートナーという視点で、顧客の製品活用の成功を支援する。「こういう頻度でこのように使うとうまくいく」「こうするとより便利になる」「このようなこともできる」と、成功に近づくイメージや手順を伝える。これであれば、顧客側も悪い気はせず、「確かに、こうした使い方も便利そうだ」「もっと製品を使ってみようかな」という気持ちになる。その結果、次のフェーズに関係は移行できる。
次のフェーズとは、オンボーディングの次の工程、「アダプション」と呼ばれる段階だ。アダプションとは「適応する」という意味で、顧客が適応していくというニュアンスで使われる。例えば、定期的に製品活用の情報が届くと、「実際に試してみよう」と考える顧客も生まれるだろう。企業からの案内と顧客の利用促進のサイクルが回ると、製品・サービスの利用が「日常化・習慣化」する。
カスタマーサポートやコールセンターでも、顧客にメリットある案内を継続的に行う事例はある。例えば、月間の架電数の10%の比率を製品活用案内にすることで、顧客の製品の利用頻度を高める可能性が高まる。「これまでとは異なる使い方もしよう」という顧客が増え、製品購入の頻度や種類も増える。その結果、継続的に売り上げが上がる。セールス的アプローチとは異なる方法で企業の業績に貢献していくことが可能だ。
取り引きを拡大していく手法
もちろん、カスタマーサクセス実践においても営業は行う。継続的な再契約・再消費を促すことに加え、プランのアップセルやオプションの追加、別製品の購入などを訴求する。はじめから高額プランを提案、あるいは関連製品と抱き合わせ提案もできるが、初期段階であえて強い営業はしない企業が増えている。まだ顧客が製品を活用しきれていない、継続的な関係を築けていないからだ。半年、1年と定期的なコミュニケーションを重ねて、顧客に製品活用を支援し、より高いレベルや頻度で活用できるようになった段階で、追加の営業提案を行うチャンスが生じる。こうした信頼感のうえで長期的な関係を築いていくための存在がカスタマーサクセスだ。
こうしたコミュニケーションのストーリーは、カスタマーサポートでも活用できる。チャットボットやIVRをはじめ、顧客対応が自動化する中で、将来、コールセンターが人手で行うべき業務は、製品体験の向上、顧客との関係構築、取り引きの最大化となっていくはずだ。CX(顧客体験)を考えたときに、「営業」という観点には抵抗を持つ傾向はあるが、「カスタマーサクセス」的な案内を行うことで、自然な形で取り引きを最大化することができる。単なる営業案内ではなく、「どうすれば顧客がより良い環境で、より良い使い方」ができるのか、顧客と真摯に向き合うコミュニケーションを検討することが、本当の意味でのCX向上につながり、結果的に経営貢献するカスタマーサポートとなるはずだ。
(2023年10月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)