ついにポイントは組織力を高めるリソース配分
加速すべき「サクセス」「サポート」の“繋がり”
カスタマーサポートとカスタマーサクセスは、職種として比べられることが多い。「カスタマー」と冠につけ、日々、顧客と相対する仕事であるため比較されやすいのだろう。しかし、業務内容を鑑みると、実はこの“比較”には意味がないことがわかる。第2回となる今回は、これらの業務内容や必要なスキルなどから、一歩踏み込んで考察する。
openpage 代表取締役
藤島 誓也
「カスタマーサクセス」という職種は、SaaS/クラウド事業の拡大を受けて、とくにBtoBのIT企業に多く存在している。例えば、SaaSを自社サービスとして取り扱うベンチャー企業や、クラウド製品を保有する大手中堅のSI企業などが挙げられる。主な仕事内容は、既に契約している顧客に自社のSaaS/クラウド製品の活用支援・契約更新支援である。目標は解約率(チャーンレート)、契約金額の拡大などであることから、IT導入コンサルテーション、法人向けルートセールスにも業務内容が近い。実際に、カスタマーサクセス職種に就職する人は、カスタマーサポートや法人営業、ITコンサルティングからの転職・異動が多い。
押さえるべき登場背景と業務内容
サクセスとサポートの違い
カスタマーサクセスの仕事内容や従事者のスキルの実態を鑑みると、本来、「カスタマーサポート」だけを比較対象とするのではなく、「法人営業」「ITコンサルティング」も比較するべきといえる。法人営業における、顧客への契約継続や拡大の提案、ITコンサルティングにおけるIT導入のプロジェクトマネジメントなどは、カスタマーサクセスの取り組みに近い。法人営業やITコンサルティングの名称が、カスタマーセールス、カスタマーコンサルティングだったならば、カスタマーサポートやカスタマーサクセスも比較対象に入っていたかもしれない。
昨今では、カスタマーサクセス、カスタマーサポートの比較に加えて、カスタマーサービスも加えた比較表も時折見る。「単に名前が似ていた」ために比較対象にされていた可能性は否定できない。
このような理由で比較されることになった現場の人たちは混乱する可能性が高い。カスタマーサクセスとの比較表をカスタマーサポート担当が見るなら、自分たちの業務は消極的なのか、コストセンターなのか、次に目指すべきはカスタマーサクセスなのか、と戸惑うだろう。
先月の記事にも書いたようにカスタマーサポートとカスタマーサクセスは、職種が登場した背景も、必要なスキルセットも異なる。そのため、「カスタマーサポートはカスタマーサクセスを目指すべき」などの発言は、社内でミスリードを招く可能性がある。ただし、カスタマーサポートはカスタマーサクセスの活動と結びつく動きがあるのは事実だ。この潮流は、カスタマーサポートに従事するなら認識しておきたい。
例えば、カスタマーサポートでは製品の問い合わせ対応や製品の活用度向上、アップセルの促進などの業務が増加傾向にある。これまで部内に蓄積してきた顧客や製品に関する情報や専門知識を活かして、プロフィットセンターとして活動する取り組みだ。
採用難対策として、チャットボットなどカスタマーサポートのDXを行う企業が増えており、効率化されたリソースをカスタマーサクセスへと配分するケースもある。カスタマーサポート部門は、コミュニケーションスキルに長けた人材が多い。そのスキルを組織力として有効活用しているわけだ。
広告上昇により収益モデルが変化
CPAの不均衡をサクセスが埋める
そもそも、カスタマーサクセスという言葉が生まれた背景には、SaaSやクラウドなど、BtoB事業におけるビジネスモデル「サブスクリプション」の登場がある。サブスクリプションモデルでは、初回の契約で大きな金額(売り上げ)を得ることは出来ない。月次課金を積み重ねて回収するため、LTV(ライフタイムバリュー)が重要となる。毎月の契約を継続させるために、中長期の関係構築を見据えた顧客体験、つまり契約後の利活用・成功のためのカスタマージャーニーが必要となった。それを実現する職種として誕生したのがカスタマーサクセスだ。つまり、従来は「SaaS」「サブスクリプション」というごく一部の業界で行われる取り組みだった。
ところが、近年、GAFAの提供するデジタル広告商品を筆頭に、広告単価が上昇している。広告単価が上がると、Web上でコンバージョン(製品の購入や予約など)させるためのCPA(Cost Per Action)の採算が合わなくなる。つまり、新規顧客獲得のためのマーケティング活動の投資対効果が得られない。だが、認知度向上のために広告出稿は避けられない。結果、企業はCPAが合わないことを認識したうえで出稿し、顧客獲得後の長期接点でLTVを拡大することで売り上げを回収するビジネルモデルを構築する必要がある。
当然の帰結として、顧客接点の業務は、新規顧客の問い合わせ対応だけでなく、既存顧客の問い合わせ対応、製品利用の促進、契約金額拡大といった範囲も求められる。
カスタマーサクセスの第1の波は「SaaS事業の勃興」によって現れた。これは、あくまでSaaSビジネスに限定されたものだった。第2の波は、「デジタル広告単価の上昇」によって、より重要性を高めるはずだ。そうなると、従来、カスタマーサポートしか存在しない、どのような業態の会社でも関係する事柄になる。これまで、カスタマーサポートとカスタマーサクセスはまったく別の職種として捉えられてきた。しかし、今後、日本企業のビジネスモデルの変化に合わせ、両者の交わりが増していくはずだ。
図 カスタマーサポートとカスタマーサクセス、交わりのイメージ
※画像をクリックして拡大できます