サービスの「共創価値」を高めよう
ISラボ 代表 渡部弘毅
土曜日は浅草のお気に入りの鮨屋に行って美味しい魚と大将との会話を楽しんでいる、わたちゃんです。最近では大将からLINEで送られてくる仕入れた魚の写真から魚種を当てるのが楽しみですが、カミサンからは、「行き過ぎ」とクレーム。対策が必要です。
サービス・ドミナント・ロジック(以下SDロジック)とは、有形財(グッズ)を中心とした伝統的マーケティングの発想から脱却して、サービス中心の発想でマーケティングを見直そうという理論です。難しい学術的な理論はさておき、「なるほど」と思うことは、お客様と企業の関係の捉え方を転換していることです。
従来の考え方では「サービス」は有形財の付随的要素が強く、また企業側から一方的に提供するものと考えられていました。しかしSDロジックでは、企業とは「お客様の価値を創造する支援者」であり、その支援そのものがサービスである、有形財はサービスを支援する保管的要素に過ぎないという考えです。そして、サービスの現場では、お客様と企業との「ナレッジ」と「スキル」が交換される「共創の場」であると定義されています。そしてサービスとはお互いの共創価値を創造、向上させることだとされているのです。
アパレルショップの接客現場で考えてみると、従来の接客は有形財、すなわち洋服を売ることが目的の接客でした。これがSDロジックの考えでは、接客の場とはお客様とスタッフの「ナレッジ」と「スキル」交換の場となります。お客様は洋服を通じたライフスタイルを充実させるための価値を創造、向上するために自分の趣味、趣向や過去のファッションライフに関する「ナレッジ」や「スキル」をスタッフに伝えます。スタッフは、世の中のトレンドや展示されている商品、あるいは自分のファッションに対する考えなどの「ナレッジ」や「スキル」をお客様に提供する。つまり店舗は接客を通じてお互いの共創価値が高まるということになります。
最近の小売業においてはネット活用に拍車がかかり、「いかに購買体験におけるストレスを軽減するか」という視点が多くを占めていますが、接客の定義を共創価値を高める場として定義して見直すことで、店舗の存在価値は向上するのではないでしょうか。コンタクトセンターでの対応業務も、共創価値を提供できるセンターは競争力の大きな源泉になることでしょう。
ということで、家に帰って説明です。「俺が鮨屋に行くのは、SDロジックの検証のためで仕事の延長なのだ。大将と自分の共創の場でどれだけ自分自身を高められるかという崇高な仕事をしているんだ。」しかしながら案の定、鋭い一言で終わり。「なんで崇高な場なのに帰ってきたときベロベロなのよ。半分記憶も無いくせに!!」
大将との共創の場の前にカミサンとの共創の場を作らなくては。
図 サービス・ドミナント・ロジックの考え方
出典:サービス学会第6回国内大会 チュートリアル