神社に学ぶ“ノウハウ”の継承
ISラボ 代表 渡部弘毅
初詣で近くにいた若い女子たちが「日本の神様の中でいちばんエライのは、テンテルダイジンなんだよ」と話すのを聞いてしまった、わたちゃんです。「それは天照大神やんけ!」と内心つっこんでいると「しかも日本最初のひきこもりなんだって!」と意外に詳しい。「天の岩戸隠れの話か!」と少し感心しました。
神宮式年遷宮は、定期的に神社の正殿を造営・修理する際や、正殿を新たに建てた場合に、御神体を遷す(うつす)ことです。伊勢神宮では20年ぶりの2013年、62回目の遷宮で大賑わいしました。この遷宮や20年という期間の目的や意義は諸説ありますが、その中のひとつは「神宮建替えの技術の伝承のため」と言われています。
建築を実際に担う大工は、10歳代から20歳代で見習いと下働きをして、30歳代から40歳代で中堅から棟梁となり、50歳代以上は後見となります。このため、20年に一度であれば、少なくとも二度は遷宮を経験するため、技術の伝承を行うことができる、ということです。とても納得できる説です。永遠に神宮を残していくために建物という有形資源だけの継承でなく、無形資源であるノウハウを継承していく重要性を理解して実施していたということです。
現代の企業も同じです。企業が永続的な繁栄をするには、目に見えない強みとなる無形資源を次世代にうまく引き継いでいくことが大切なのではないでしょうか。そのためには、カリスマ経営者がいつまでもトップに居座るのではなく、経営の若返りを定期的に実施しながら、経験を踏まえてノウハウを養って継承していく、「企業式年遷宮」のような行事も必要かもしれません。
また、次世代への継承といった大々的なことに限らず、コールセンターなどのサービスの現場における応対スキルも無形資源としてのノウハウです。ただ、20年に一度しか神宮建て替えを体験できない宮大工と違い、サービス現場では毎日が経験の連続です。したがって、「経験が多い分、自然とノウハウは身についているはず」と思いがちです。しかし、無形資源すなわち暗黙知は標準化、マニュアル化して形式知として見える化、継承していくことが重要なのです。毎日経験することと、形式知化した知識を試す機会が多くあること、この2つの量と質を向上させていくことが重要です。ノウハウの継承には「知識の形式知化」と「定期的な体験」で“定着”させることが不可欠だからです。
ということで、さっそく初詣で出会った女子たちに正しい知識を継承するべく、天照大神と天の岩戸隠れの話をしてあげました。ついでに、「君の名は。」で登場した巫女さんの主人公、神楽舞は、岩戸に隠れた天照大神を岩戸から出すために踊ったことを説明したところ、「ひきこもりを前向きな気持ちにさせて外に出すなんて、アイドルじゃん! AKB48じゃん!」との反応。神話の世界のノウハウは秋元康に継承されていたのか!と感心させられました。
図 ノウハウ継承の両輪