マネーフォワード
「THE MODEL型」のデメリットを払拭
部門間連携の構築プロセスと成果
BtoB企業におけるカスタマーサクセス部門は、提供しているソリューションやサービスごとに設置する企業が多い。必要とする機能は共通であるにも関わらず、部門ごとに異なるシステム運用を行っていては、コストも手間もかかり、一貫したCX(カスタマーエクスペリエンス)の提供も難しい。マネーフォワードは、部門をまたいだ情報共有と、ITシステムの共通基盤を構築した。
会計ソフトや給与計算ソフトなど、複数の財務管理ソフトウエアやサービスを中小企業から大企業、さらに個人向けにも提供しているマネーフォワード。提供ソリューション別に、それぞれにマーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセス、開発組織が存在している。スペシャリストによる分業体制を徹底した、いわゆる「THE MODEL」型の組織だ。
結果、従来はカスタマーサクセス部門間も連携はほとんどなく、個別運用に徹していた。これによって素早い意思決定に基づく「製品・サービスごとのサクセス」を目指し、実践できていた。
しかし、売り上げが急拡大し、その手法に限界が生じる。なかには1年半の間にスタッフ数を3倍近くまで拡大する部門もあったが、それでもスケール(拡大)のスピードに追い付かなかった。結果、リソース(人材やITインフラなど)の有効活用を目的とした組織連携の模索がはじまった。
e-ラーニング、ヘルススコア、タスク管理
3ソリューションを部門横断で導入
HR領域の6プロダクトを統括するHRソリューション本部 カスタマーサクセス部 部長の山口絢子氏は、「人事労務系ソフトウエアは、利用開始までに各種設定やデータ移行などで3カ月ほどの時間が必要。一方で、乗り換え障壁が高く、利用開始後の離反率は低いという特徴があります。このため、いかにスムーズに導入・運用を軌道に乗せるかが重要です。事業拡大にキャッチアップするために、まずはより多くのお客様を支援できるテックタッチ強化が回避できない状況でした」と振り返る。
テックタッチ手段のひとつであるeラーニングツール導入を検討しはじめたところで、「全社カスタマーサクセスの横断プロジェクト」が始動する。ITソリューションの導入は、全社で共用したほうがコストおよび運用におけるメリットが大きいという判断だ。
また、サクセス部門共通の課題として、「ヘルススコア判定が主観に依存していたこと」も挙げられていた。山口氏は当時、自らが属していた部門について「担当者が1社ずつ、顧客のアカウントにログインし、利用状態の確認やトラブルシューティングを行っていました。評価基準や判断も主観に依存し結果的に対応品質にもばらつきが生じていました」と話す。
こうしてeラーニング、ヘルススコア、そしてタスク管理ツールを部門共通の基盤として採用した。
eラーニングツールは、オンライン学習プラットフォームの「Thinkific(シンキフィック)」を導入。オンライン講座を簡単に制作、配信できるクラウドサービスだ。山口氏は選定のポイントについて「当社は製品の種類が多いので、製品別にガイドを構築でき、かつ1章、2章と単元に区切れるツールを探しました(画像)。決定打は、作成の自由度が高く、製品ごとに適した画面設計ができたことです。また、それぞれにページのタイトルやURLが設定できるので、お客様にピンポイントで『このページのこの部分を見てください』とご案内ができます」と話す。
また、プロジェクト管理・タスク管理にはヌーラボ(福岡県福岡市、橋本正徳社長)が提供する「Backlog」を導入。顧客を専任でサポートするハイタッチチームでキックオフミーティング後のスケジュールおよびタスク管理を行っている。たとえば、契約からオンボーディングまでの適切な日数を逆算して、「X日までにここまで終わらせてください」「この作業は1日で終わります」と細かな目標や目安を提示、進捗が遅れているクライアントをフォローできる。一覧で顧客の状態を把握できるため、均質で抜け漏れの無いフォローが可能だ。
クライアント数拡大に合わせて急増する新入社員のオンボーディング支援や顧客の進捗管理には、米アサナ社のタスク管理ソフトウエア「Asana」を採用。従来、同社内のエンジニアがプロジェクト管理に使用していたものを流用している。
リーダー間のコミュニケーション増で
マネジメント力強化を実現
今後、さらに統合を検討しているのは「カスタマーサクセスツール」だ。現在、顧客情報を管理する基本的なカスタマーサクセスツールは自作で運用している。その概要はGoogle CloudのデータウエアハウスBigQueryに蓄積した顧客情報をSQLでスプレッドシートにヘルススコアとして可視化し、Google Apps Script(GAS)を用いて、Asanaにネクストアクションのタスクを生成している。これらを活用し、結果を俯瞰することで客観的な顧客状況分析を実践している。横断プロジェクト発足時の目的は実現できたが、メンバーが誰でも運用できるわけでなく、属人的な運用にならざるを得ず、かつ改善コストも嵩む。今後、全社共通の外部基盤に入れ替えも検討している。
横断プロジェクトについて、「きっかけこそ全社で共通ITを導入するというコストパフォーマンス視点でしたが、リーダー同士がコミュニケーションを取る機会が増え、互いの方針を擦り合わせたり、効果的なKPI/KGI、レポート作成などを共有しており、想定以上の成果につながっています」(山口氏)という。
一連の取り組みの結果、現在、約9割の企業が想定通りの3カ月で導入完了している。今後は、導入済み顧客向けのサポートや利便性向上につながる施策を検討。セミナーの開催やユーザーインタビューを促進しつつ、コミュニティの導入も視野に入れている。