サポート部門/コールセンターが学ぶべき
“カスタマーサクセスの業績貢献”
「経営貢献度が可視化できない」ことに悩むセンターマネジメントは数多い。予算獲得のためにも、コストカット指示に対する反論材料にするためにも、経営貢献の可視化は避けることができない。今回は、大半のカスタマーサクセス部門でKPIに設定しているさまざまな「経営貢献指標」をカスタマーサポートで適用する手法を探る。
openpage 代表取締役
藤島 誓也
先日、本誌編集長との対談で「カスタマーサポート職種は、業績貢献の観点でカスタマーサクセスから学べることがある」という話題になった。今回はこのテーマを掘り下げる。
カスタマーサクセスはSaaS誕生に伴う解約防止の必要性が普及の背景にある。つまり、カスタマーサクセスは誕生時点から財務観点を持って生まれた職種だ。カスタマーサクセスの進化度合いを、財務貢献の観点で検証しよう。サクセスの基本的なミッションは、「製品の解約抑止」にある。そのため、積極的に製品活用を促す「オンボーディング」のためのコミュニケーション手法が発達した。製品利用における“理想の姿”を提案することで、契約継続を促すというわけだ。このコミュニケーションの過程で、解約抑止だけでなくクロスセル/アップセルの拡大もカスタマーサクセスの役割とする「エクスパンション」という考えが生まれた。
そして現在、売上継続率(NDR/NRR)という指標がカスタマーサクセスにおいて普及しはじめている。この指標は、新規獲得した顧客の1年後の売り上げが昨対比で何%になっているかを見るものだ。100%を超えている状況であれば、新たに顧客を獲得しなくても、既存顧客のエクスパンション──売上拡大によって成長しているということだ。
売上継続率を高める、つまり既存顧客からの売り上げを拡大する目的で、クロスセルをするための製品をM&Aで獲得、あるいは事業開発する企業もある。
顧客満足+契約拡大を意識
カスタマーサクセスの取り組みで重要なのは、顧客と自社の双方の「成功」を意識している点だ。まずは、顧客満足を実現するため、自社製品を活用し「成功」を支援する。さらに、売上拡大を見込んだ他の製品の契約促進や、契約プランのアップデートを促す。これらの活動は、従来のCRM情報に基づくセールス、ルートセールスよりもさらに積極的な姿勢だ。
カスタマーサクセスを推進するSaaS企業は、自社の製品利用状況やアカウント関連の詳細な情報を持っている。たとえば、どれだけ製品が利用されているのか、アカウントが何名分発行されていて、そのうちアクティブなアカウント数はどれくらいか、などだ。しかしこれらのデータは、「KGI」ではなくあくまで「KPI」だ。製品活用やアカウントの稼働のみをゴールにするのではなく、利用状況をウォッチしつつ、最終的なゴールは契約の維持や拡大にあり、ゴール設定は中長期視点で置く。
一方、カスタマーサポートは目の前の問い合わせ/問題解決にフォーカスする傾向がある。しかし、そうした対応品質だけではなく、今後、起こり得る製品やサービス活用による成功体験を促すような提案を主体的に実施することで、契約拡大のチャンスを捉えることもできるのではないだろうか。このプロセスと成果の可視化については、カスタマーサクセス部門の取り組みから大いに学ぶことができそうだ。
顧客の成功を意識したフレーズ
かつて、筆者がケーブルテレビのコールセンターで仕事をしていたときに、印象深かったのは、評判の良い先輩のトークスクリプトだ。「仕事帰りにビール片手にソファーで寝そべって見ると最高ですよ」など、手書きの台本を作っていたのだ。はじめは「興味がない」態度だった顧客も、オペレータの「もっと良い体験をしてほしい」との思いに触れ、徐々に関心を示すようになる。いま振り返ると、実にカスタマーサクセス的な顧客対応といえる。
カスタマーサクセス部門が行うのは、製品の利用を通して成功する魅力を伝え、成功するための手助けをし、財務的な成功から逆算して営業提案を行うことの3点だ。製品の魅力を伝えつつ、抜かりなく営業活動も行う点は、カスタマーサポート部門も見習うべきプロセスではないだろうか。
現在、テクノロジーの進化により、通話内容のテキスト化や、より高度な検索が可能となっている。その中で、「魅力の伝達」「成功の手助け」「営業提案」がどれだけ出来ているか計測することもできるだろう。オペレータが顧客の成功を考え、ポジティブな言葉を伝えることで、結果的にセンターの雰囲気も良くなるはずだ。
カスタマーサクセスが単なる営業と異なるのは、「売る」ための提案ではなく、「成功してもらう」ための提案を行うことにある。製品体験を通じて幸せになってもらうことを積み重ね、契約の拡大を目指していくプロセスこそ、カスタマーサクセスである。
同じように顧客とコミュニケーションするカスタマーサポート部門においても、この考え方やプロセスを取り入れることはできる。魅力を伝える「サクセスフレーズ」を定型文に入れることも、カスタマーサクセスの始まりにもなる。クロスセル/アップセルのための連携を営業やカスタマーサクセス部門と実施することも可能だろう。
「業績貢献」に直結するには、営業活動は不可欠だ。確かに、インバウンドの問い合わせが中心となるカスタマーサポート部門では、露骨な営業提案は難しい。だが、カスタマーサクセスの入り口になるような、「顧客が製品を体験して成功する提案」をする余地はある。カスタマーサクセスの入り口としてのコミュニケーションと、その過程で、顧客が必要とする場合には営業的なアクションを実施することは、カスタマーサポートの財務貢献において現実的な着地点になるだろう。
図 カスタマーサクセスに学べる業績貢献