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本誌記事 連載 カスタマーサクセスAtoZ 第4回

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Trend 連載

解約率では可視化できない経営貢献度
サクセス部門最大の指標「売上継続率」

カスタマーサクセスでのメイン指標とされるのが「チャーンレート」、つまり解約率の低減だ。だが、これだけでは経営貢献の度合いは測りにくい。国内カスタマーサポートにおいて、放棄呼率でなく応答率が馴染んだように、「日本に馴染み、かつ経営貢献指標として最適な指標は売上継続率」といえる。その効果を検証する。

藤島 誓也
Writer
openpage 代表取締役
藤島 誓也
東大ベンチャー、大手出版社と共同でコンテンツマーケティング製品を推進。その後、ビズリーチにてCSM(カスタマーサクセスマネジメント)チームを立ち上げる。2018年、SaaSスタートアップから大手SI企業まで米国流のデジタルカスタマーサクセスの導入を支援するopenpageを設立、伊藤忠テクノロジーベンチャーズより資金調達する。note、Twitter、YouTubeでカスタマーサクセスの最先端情報を発信している。

 カスタマーサポート、カスタマーサクセスなどの言葉は、米国から日本へその概念や手法、ノウハウが輸入された。ただし、こうした言葉は、米国で持つ意味や手法までそのまま輸入されたわけではない。日本の歴史、商慣習、ビジネスモデル、企業の事情を踏まえ、市場に適応した形で「日本流」に解釈されることも少なくない。カスタマーサクセスもまた同様だ。日本にどのように輸入され、普及していくかを検証・予測する。

 その前に、コールセンターなどのカスタマーサポートが米国から輸入された過程を振り返るうえで欠かせないのが放棄呼率と応答率だ。従来から、米国におけるカスタマーサポートのKPIは「Abandon Rate(放棄率)」、つまり「電話がつながらなかった割合」が重視されている。ところが、このAbandon Rateの概念が日本に輸入される際、「応答率」として普及した。

 日本では「電話には応答するのが当たり前」との商慣習から、放棄という表現が適切と捉えられなかったという事情もあるだろう。「100点満点(100%)が理想」とされてきた日本では、減点方式で見るほうが馴染みやすかったと推察される。

解約率のわかりにくさ

 この観点からカスタマーサクセスのKPIも考察する。カスタマーサクセスは解約率(チャーンレート)を重要視する。契約社数が100社いて、毎月1社解約される状態が続けば月次解約率が1%、年次解約率は12%となる。つまり年間で12社の解約が発生し、その分の売り上げが毀損する。

 しかしこの解約率は、経営、つまり売り上げとの関係性が実は見えにくい。「解約率が月次で0.5%減りました」と報告があっても、良いか悪いかの判断が難しいといえる。そもそも解約阻止のような、売上毀損を計測する文化が日本にはまだ定着していない。日本の大企業が基軸としてきたモノづくりとは、サブスクリプション・ビジネスではなかったため、そもそも「解約」という工程がほとんど発生しなかったことも影響している。

 企業は売り上げを追求するため、新規の契約金額や取引社数の増減を把握しようとする。その観点では、解約率は売り上げへの貢献度合いは確かにわかりにくい。

 「カスタマーサポートに比べて、カスタマーサクセスはプロフィットセンターである」といった説明はよく見聞きする。ただし、売り上げへの貢献度合いが見えにくいKPIである限り、経営者にとってカスタマーサクセス部門もまた、コストセンターに見られてしまうだろう。

 カスタマーサクセス部の現場からも、経営者に意義を理解してもらえなかったという声は多くあがる。原因のひとつが、チャーンレートだけでは経営観点での売上貢献度合いが見えにくく、投資した場合のROIがわかりにくいということだと推察される。

売上継続率が普及のカギ

 従って日本企業に適したカスタマーサクセスのKPIを考察すると、「売上継続率」となる。これは、例えば昨年契約した顧客を抽出し、その顧客の売り上げが1年間で上がっているのか下がっているのかを計算し、前年比を算出するものだ。この売上継続率を見れば、カスタマーサクセスの活動により顧客離れを防ぎ、かつ追加購入を実現し続けられているかを判断することができる。

 売上継続率は現在、米国のカスタマーサクセス指標として最も注目されているもののひとつでもある。例えば、売上継続率が120%だった場合、新規顧客を増やさなくても、既存の顧客基盤から前年比20%増という成長が会社にもたらされる。新規営業で前年比20%増の売り上げを出すことの苦労思えば、このインパクトの大きさがわかるはずだ。

 これは、既存顧客の売り上げを前年比で見るだけなので、サブスクリプション・ビジネスでなくても導入できる。SFAやCRMといった顧客管理システムで個社ごとの売り上げを把握できていれば、この数値から売上継続率を算出することも容易だ。

 ポジティブな状態を目標に据え、減点方式で見るという日本文化においては、「解約されていないか」という解約率より、「既存顧客の売り上げが伸びているか」を見る売上継続率は親しみやすいはずだ。

 カスタマーサクセス部門のミッションは、顧客の成功実現をゴールに、製品サービスを適切に使ってもらえるようフォローし、顧客の成功によって自社の売り上げを高めていくことにある。ところが、チャーンレートをベースにする考え方は、そもそもSaaSのサブスクリプション・モデル以外では運用が難しい。非SaaS企業に在籍している人たちにとっては、カスタマーサクセスとは縁遠いものに見えたに違いない。

 しかし、売上継続率であれば、既存顧客の売り上げの伸び率であることから、顧客基盤を持つどの企業でもカスタマーサクセスは適応可能となる。実際、openpageのクライアントでもサービス業などではSaaS企業以外でもカスタマーサクセスを始める事例が増えている。

 その場合、SaaSのカスタマーサクセスの手法をそのまま取り入れるのは難しい。しかし、その本質を捉え、自社流に解釈して取り組むことは可能だ。売上継続率という指標は、カスタマーサクセスの考え方をより多くの企業に広めるだろう。

図 カスタマーサクセスの“新指標”

図 カスタマーサクセスの“新指標”

 

 

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