「観察力」「洞察力」、そして「声質」
“おもてなし”体現するスキルの本質
筑波大学客員教授
Global Manner Springs 代表
江上 いずみ 氏
高い接客品質において、さまざまなサービス業のロールモデルとなっているのが航空業界のCA(キャビンアテンダント)だ。なかでも日本航空(JAL)は、経営状況を問わず常に「最高品質」を体現。JALの元乗務員である江上いずみ氏に、「パーソナライズ化された、マニュアルを超越したおもてなし」の要諦を聞いた。
Profile
江上 いずみ 氏(Izumi Egami)
筑波大学客員教授 Global Manner Springs 代表
1984年に日本航空へ入社後、客室乗務員として国内線・国際線に乗務。1985年に乗務員向けに機内アナウンスを指導するPAクリニックを創設。皇太子殿下・美智子妃殿下担当乗務員として、米国3都市を回る特別便を担当。2002年に先任客室乗務員に昇格、後進の指導育成にあたる。2013年に同社退職後、Global Manner Springsを設立。年間講演は250回におよぶ。
──対面・非対面を問わず、顧客接点に求められる「おもてなし」についてどのようにお考えですか。
江上 「おもてなし」とひと口に言っても、一律にマニュアル化された定義がある訳でなく、どのようなサービスを「おもてなし」と捉えるかは、お客様ごとに千差万別です。ですから、自分自身の心遣いが、必ずしもすべてのお客様に喜んでもらえる訳ではありません。私は、「その場面でどの心遣いがベストか」を、日々考えるようにしていました。
例えば、機内でゆっくりお休みになりたいお客様の中には、周囲の空気の動きや、わずかな気配に対しても敏感な方がいらっしゃいます。観光を目的として搭乗されているお客様ではなく、目的地に到着してすぐお仕事というビジネスパーソンにとっては、移動時間は静かにひと眠りしたい方も多いはずです。ですから、お休みされている方の席の周辺は、普段より足音を立てずに歩くよう配慮していました。サービスを提供するスタッフは、お客様の状況・雰囲気を察知し、その場に応じて柔軟に行動していく必要があります。コールセンターでの対応においては難易度が非常に高いかもしれないですが、漏れ聞こえる音から、どのような状況でお電話されているのかを推察し、話す速度や声の大きさを変えることはできると思います。
クレーム対応にも求められる
「気遣い」に基づく行動
──「観察力」と「洞察力」が求められますね。
江上 2つのどちらのスキルにも、相手に興味を持って接する意識が大切だと思います。例えば、ビジネスパーソンの隣席に座っているお母様の赤ちゃんが泣き出した時、「赤ちゃんだから仕方ない」とはいえ、乗務員へ訴えたくなるお客様もいるでしょう。「うるさくて眠れない」という意見も十分に納得できるため、どちらのお客様の状況にも寄り添う必要があります。同じクラスの席が空いていれば席を移動してもらう判断もできますが、その判断の仕方には日々の観察力が試されます。どうしても、「音の原因」である赤ちゃん連れのお母様の席を移したくなりますが、移動先で再び泣いてしまうと、今度はその席周辺からより大きなクレームが起こりかねません。こういった場面では、赤ちゃん連れのお母様の席を移すのではなく、ビジネスパーソンの方に丁寧に説明してご移動いただくと、うまく解決できます。
ただひたすらマニュアルに沿って接するのではなく、相手に関心を持って観察し、気づきを得て寄り添っていく心遣いが必要です。
(聞き手・矢島 竜児)
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