属性型からタイミング型へ
「顧客の解像度」を上げて1to1を最適化する
Nexal
代表取締役
上島 千鶴 氏
オンラインとオフライン、一方の顧客行動しか把握できない状態では、精度の高いマーケティングやセールスは難しい。デジタルマーケティングに詳しい上島氏は、「まずは散在しているデータの統合。そのうえで組織のカベを崩して社員が各自の役割を拡張することで、真のワン・トゥ・ワンが実践できます」と強調する。
Profile
上島 千鶴 氏(Chizuru Kamijima)
Nexal 代表取締役
トランスコスモスで、人事・営業・企画・事業開発部門を横断。その後外資ITベンダー数社にてマーケティング&セールスを実践。2007年に独立系コンサルティング会社Nexal,Inc.を設立。主に、デジタルマーケティング戦略策定やKPI設計などを支援する。
──マーケティングや営業のトレンドは変遷が激しく、カスタマーサービスの戦略や戦術にも大きく影響します。これまでの流れと、現段階のステージについて、考えを聞かせてください。
上島 1990年代、私が新卒入社した会社の営業部門に異動した当時、受発注システムや訪問管理システムのデータをもとに、営業のパフォーマンスと受注の相関分析などを行っていました。しかし、「より深い顧客理解が必要」と感じて転職、まだ珍しかったWebアクセス解析ツールを開発する外資系ITベンダーに入社しました。2000年前半の当時、ツールを利用して成果を出している企業は、BtoCでは会員の行動を分析後、次のアクションを促す施策でコンバージョン率を上げるPDCAを回していたり、BtoBでは定期的に回るルート営業を改め、固定IPからWebのアクセス状況を把握、タイミングよくコンタクトすることで新規契約を伸ばしていました。現在ではようやく、「オンライン行動データは使い道によっては宝の山」という考えが一般化したといえるでしょう。今後は、オンラインのデータだけではなく、オフラインの行動履歴もかけ合わせることで、精度の高い顧客プロファイリングができ、時間軸で確度の高いワン・トゥ・ワンが実践できるのではと考え、数年前にコンサルタントとして独立しました。
──実際に、オンラインのデータをオフラインのセールスや広告に活かす実証実験も進み始めていますね。
上島 QRコードを読み込むとその人に最適化された広告を出したり、アプリを入れた顧客が店舗のBluetoothデバイスに近づくとキャンペーンを案内するといったマーケティング施策は、すでに現実世界で実用化されています。今後、ポイントとなるのは、「いかにパーソナライズ化していくか」です。例えば、昨夜、眠りにつくのが遅かった顧客にサプリメントを提案するなど、その人が、「今、必要としていたもの」と感じる商品や、本人も意識していない潜在的な欲求に響く提案が必要な時代になっています。従来型の、顧客属性などに基づく画一的な提案では、「メールやポップアップ広告がうっとうしい」というマイナスの顧客体験になりかねません。最適なタイミングを見出すためには、リアルタイムのデータ解析が必須条件となります。5Gが拡大し、通信が高速化していけば、より多くのデータをやり取りできるようになります。広告がパーソナライズされていくための環境や技術は整いつつあると言えるでしょう。
(聞き手・石川 ふみ)
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