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2021年6月号 <市界良好>

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市界良好

<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp

見えないこと

秋山紀郎

 新型コロナウイルスの影響が長く続いている。私としては、感染者の年代や感染経路が不明かどうかという情報より、感染した人の生活スタイルに関心がある。外出や外食の有無、手洗いやうがいの頻度など、どのような対策を講じていたかを知りたいと思っている。ウイルスが難題なのは、感染しているかどうか、すぐに分からないからである。もし、肉眼でウイルスが見えたとしたら、対処ははるかに簡単だろう。目に見えないから対策が難しく、何が有効かも分からない。人々も不安になり、感染対策の是非論などから争いごとや人間関係が悪くなることも起きているのだと思う。

 少し別の話をしよう。先日、自宅の大型冷蔵庫の買い替えを決意し、ネットで購入した。土曜日の8時〜12時の配送予定であった。早朝から古い冷蔵庫の中身を出す準備に追われていたところ、センターから電話があり、配送が12時〜14時になるという。時間がずれたため、入念に冷凍品や冷蔵品を別の箱に詰め替え、12時までには終えて、準備万端で新しい冷蔵庫を待った。しかし、14時を過ぎても業者は来ないし連絡もない。しびれを切らし、センターに電話をして折り返しの連絡を依頼した。ようやく配送業者から電話が来たのが14時50分。まだ前の現場にいるという配送業者からは、「2時間作業が遅れていて、到着が16時頃になる」との説明があり、さすがに電話口で怒った。

 「なぜもっと早く連絡をよこさないのか」「冷凍品がダメになってしまうではないか」「本当に16時に着くのか」──。それから1時間経ち、16時少し前にようやく業者が来た。大型冷蔵庫を運んでいるのはたった2人。何だか可哀そうになり、対面では怒る気も失せ、むしろ作業を手伝った。電話口で怒ったが、会って違う感情に変わった。

 コンタクトセンターのサービスも目に見えない。お互いの状況が見えないから、コミュニケーションには気を遣っているだろう。対面サービスと異なる注意点も多い。私の冷蔵庫配送のエピソードも、相手が見えない電話だけのケースと、実際に会ったときとでは、私の態度が変わった。

 今、コンタクトセンターでは、せめて対話を見えるようにしようと、音声認識ツールを用いて、リアルタイムに音声をテキスト化する取り組みが進んでいる。オペレータにも、SVなどの管理者にとっても、発話が文字化されて見えるようになったことで、心理的な負担やモニタリングなどの業務負荷が軽減している。そして、今後、さらなる進化が問われている。PCのカメラをオンにして、サービス自体を見えるようにする。商品を見せたり、オペレータが顔を出したりすることへのチャレンジだ。見えるようになれば、サービスの幅が広がり、説明が容易になることも多い。クレーム対応に悩むセンターは、オペレータが顔を出すことでクレーム件数が減るのではないだろうか。

 これまでサービスが目に見えなかったコンタクトセンターにおいて、どのようなツールで、何を見せれば、見えないことから生じる不安から、顧客もオペレータも解放されるのかといった研究は、これから始まる。見せる、いや、魅せるコンタクトセンターが数多く誕生することに期待したい。


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