「密閉、密集、密接」の“3密”の回避が難しい職場であるコールセンター。
3月から4月にかけて、Twitter上では現場で勤務するオペレータの告発とも悲鳴とも取れるつぶやきが拡散している。厚生労働省の専門家委員会でも問題視された結果、産業医の有志グループが、委員の監修を受け、数ある職場のなかでもとくにコールセンターを対象とした対策チェックリストを公開するに至っている(https://callcenter-japan.com/news_topics/4650.html)。
3密を回避するもっとも有効な方法は、他のオフィスワーク同様、テレワーク、つまり「在宅コールセンター」の導入だ。先般、チューリッヒ保険会社が「全体の90%」の在宅化を発表したが、これは数年がかりで準備を進めてきた成果である。現段階において、その準備なしに「これまでとまったく同じオペレーションや対応品質を維持したままの在宅化」に移行できるセンターは、皆無に近い。その背景や原因は弊誌「月刊コールセンタージャパン」の6月号でまとめるが、本稿ではまず、いま、センターマネジメントや運営企業、アウトソーサー各社が取り組むべき「脱・3密」に向けた4つのポイントをまとめる。
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1.「脱・3密」の最適手段「在宅シフト」への現実的回答
まずは、やはり「在宅への移行」だ。現在の環境やサービス品質をそのまま移行することは難しいが、“できる範囲”を抽出し、段階的に移行することで、既存センターの人口密度を下げることが期待できる。
その“できる範囲”を探すために欠かせないプロセスが、「コールリーズン(コンタクトリーズン)」の分析だ。入電コールを用件ごとに分類する。この場合、まずは緊急度・重要度が軸となるが、さらに取り急ぎ必要な分類軸は「顧客情報の参照の要・不要」だ。
在宅センター化を阻んでいる最大の要因は、個人情報保護を目的とした情報セキュリティの確保が困難とされている点にある。ITソリューションの機能としては、シンクライアント方式に代表されるようにセキュリティ対策が高いレベルで実装されている。それでも各センターが「難しい」と口を揃えるのは、日本独自ともいえる「雇用形態」に原因がある。
日本のコールセンターは、オペレータの主力が有期契約社員(派遣社員含む)である会社が大半を占める。「彼/彼女たちに自宅で顧客情報を参照させるわけにはいかない」というのがマネジメント/経営の本音だ。本稿では、この是非の議論は置いておく。しかし、こうした現状がある以上、ITソリューションのセキュリティ機能がいくら向上し、音声品質が上がっても、100%の業務を在宅に移行することは不可能だ。
そこで、コールセンターへの入電のなかで、「顧客情報を参照しないで済むコール」を抽出し、それを在宅オペレータにルーティングする。全体に占める比率は業種や業務によって異なるが、一定数のコールを抽出できれば、センターそのものの人口密度を下げることもできる。もちろん、FAQなどのナレッジベースは、在宅環境でも参照できるツールにすること、そしてエスカレーションや手あげ対応が難しいことから、内容の充実は大前提となる。
一例をあげる。一般的には顧客情報が必要とされる商品やサービスの購入だが、「新規」の顧客ならばそもそもデータベースに登録情報は存在しない。IVR(音声ガイダンス)で「新規申し込み」という選択肢を用意する、あるいはいっそのこと電話番号を分けるという導線設計を実施し、在宅オペレータに振り分ける。そこで聞き取った顧客情報や注文情報は、MS-Accessなどの簡易的なデータベースに登録し、のちにCRMデータベースに統合するという業務フローが考えられる。当該顧客の情報は在宅オペレータの知るところにはなるが、顧客データベースそのものにはアクセスできないので、少なくとも大規模な情報漏えいのリスクは回避できるはずだ。
なお、在宅コールセンターの研修・トレーニングや個人・グループへのフォローは、数多あるEラーニングツールや、「Slack」などの社内コミュニケーションツール、「ZOOM」に代表されるオンラインミーティングツールをフル活用できる。
在宅センターを実現するITは、機能の差はあるが、さまざまなベンダーが提供開始している。なかには無償期間を設けているソリューションもあるので、自社の規模や「どこまで機能が必要か」を見極めて選択してほしい。ただし、ルーティングを司るPBXやACD、ナレッジベースなど、IT全体の「クラウドシフト」はもはや避けられない要素であることは念頭にいれるべきだ。
2.あらゆるコンタクトチャネルをフル活用する(デジタルシフト)
次は、Webチャネルのフル活用である。すでに注文や照会、更新などの手続き処理系の用件(コンタクトリーズン)については、かなりWebサイトでのセルフサービス対応が進んでいる。このサービスの利用促進をより強化することで、入電を減らすことが期待できる。
カスタマーエクスペリエンスの観点からいっても、「電話をかけないで済むWebサービス」は貢献度が高い。この存在を電話対応の際の待ち時間のガイダンス、TwitterやLINE、メルマガなどのあらゆるチャネルを駆使して訴求する。もちろん、Webサービスの使い勝手を向上することは大前提だ。あわせて、チャットボット(LINE含む)もうまく活用しよう。また、YouTubeなどの動画を活用したサポートコンテンツの開発も有効となる。
3.インバウンドを劇的に減らす「コールバック」の利用
次は、「コールバック」の活用である。インバウンドを絞り込み、あふれた部分を「コールバック予約」のシステムを活用してアウトバウンドで対応するという手法だ。
コールバック予約は、IVRで予約する、Webサイトで予約する、ショートメッセージ(SMS)活用といった方法がある。
コールバックするオペレータは、用件次第では在宅スタッフを活用することが可能だ。すでにこの手法で100%、在宅に移行した事例もある(詳細は月刊コールセンタージャパン6月号に掲載予定)。
また、コールバックの業務フローの確立は、在宅センターで課題とされるエスカレーション対応の円滑化にも貢献する。在宅環境では、難易度の高い対応を、即座にSVが支援に入ることは難しい。いっそのこと、オペレータが「無理」と判断したら折返しするルールを徹底する。結果的にオペレータにとっても顧客にとってもストレスは軽減されるはずだ。
4.最大の提言「サービス品質を下げる」
コール量を減らす取り組みは上記の通りだが、結局は「顧客次第」であり、劇的な変化は難しい。合わせて、センター内での感染防止の徹底は大前提となる。
うがいや手洗い、検温、消毒、換気といった取り組みは、ここに挙げるまでもなく、「実施して当然」である。それ以外のセンター内で取り組むべき要素をまとめる。
まず取り組むべきは、「ソーシャルディスタンス」の維持だ。隣席、向かいの席を空ける取り組みは必須となるが、そうなると、必然的に稼働は低下する。在宅への一部移行が進んだとしても、「コロナ以前」のサービス品質を保つことは難しい。
そこで今回、もっとも大きな提言となるのが、「サービス品質を下げる」という決断だ。
できる範囲での在宅シフト、Webチャネル活用、インバウンドコールのコールバック対応など、あらゆる手を尽くしたうえで、いずれの施策も適用できない、かつ緊急度・重要度の高いコールのみに、人的リソースを集中する。なお、この「緊急度・重要度」の判断は各企業に委ねられるが、思い切った基準の引き上げが求められる。
結果的に、重要度、緊急度の低いコールへの接続品質は低下するだろう。それをよしとしない経営陣、マネジメントも存在するかもしれないが、いまは全国的な緊急事態宣言下である。そうした経営者、マネジメントに対しては、「つながりにくいという苦情よりも、“3密”を放置して従来通りの勤務を継続している方が、はるかに大きなブランド価値の毀損になる」ことを強調すべきだ。
サービス品質を下げるという決断が難しい大きな要因が、「業務委託」にある。委託先であるアウトソーサーにしてみれば、クライアントである委託元企業がその判断を認めてくれない限り、実践できない。つまり、コールセンターの「3密」を難しくしているのは、発注者である委託元とコールセンターの現場の距離の遠さ、もっと言い切れば、「委託元のマネジメントや経営の当事者意識のなさ」にある。委託している事業会社のマネジメントや経営には、現場の環境を的確に把握し、迅速な判断を行うべきだ。
アウトソーサー各社にとっても、社員の生命を守ることは雇用主としての義務である。顧客であるクライアントに対し、下請けの業者ではなく、パートナーとして強く提案することを望みたい。
さらに、顧客(消費者)に対しては、「3密回避のため、電話がつながりにくくなっている」ことを言葉を尽くして説明し、理解を得る努力をしよう。電話のガイダンス、ホームページ、SNS、場合によってはマス広告を活用するのもひとつの手段だ。こうした理解を得るための広報活動が、「従業員を大事にし、感染拡大阻止に貢献している」という印象を強め、ロイヤルティ向上につながる可能性も高い。
カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上は、ここ数年、コールセンター/コンタクトセンター業界における大命題であり、それは今も、これからも、変わりはない。しかし、そのために従事しているスタッフの健康や不安を度外視してもよいという理論は絶対に成立しない。新型コロナウイルス感染症拡大を食い止めるためにも、「3密」の回避は全国民に課せられた命題だ。いまは、CXよりもEX(エンプロイーエクスペリエンス:従業員体験)を重視することを強く提言したい。もちろん、不幸にも感染者および濃厚接触者となったスタッフに対する休業補償は、絶対におろそかにしてはいけない。
実践チェックリストを作ろう
先般、Facebook上でコールセンターに関わる有志を募り、オンライン・ミーティングを実施、さまざまな観点でコロナウイルス対策を議論した。センター運営企業、ITベンダー、SI、アウトソーサー、コンサルタントなど、立場を越えた議論を、ISラボ代表の渡部弘毅氏にまとめていただいた。その一部を公開する。執務室および休憩室における取り組みは、対策の実施チェックリスト作成の素材としても活用していただきたい。
執務室 | マスクの配布、マスク着用で受電対応 |
出社時検温、定期的に検温 | |
隣席および正面の席を空ける | |
隣席および正面との間にアクリル板などの仕切りをつける | |
共有物の専有化 特にヘッドセット | |
アクリル板やプリンター、備品を定期的に消毒 | |
朝礼は中止して、メールやWEB掲示板などを使って、必要な周知事項は周知 | |
紙対応を極力排し、できるだけ電子化を図る。できない場合は、簡易な手袋を装着の上、業務を行う。 | |
ミーティングは極力中止、どうしても必要な場合は時間半分 | |
フリーシーティングの廃止 | |
ロッカーは退社後消毒 | |
休憩室 | ランチや休憩時間をずらしたシフト配置 |
席の固定 | |
間隔をあけて座れないようにする(テーブルに✕印等) | |
誰がどの席で休憩したかのログを記録 |
経営判断 | 8割減は国家方針。それに従わない企業はそもそもNGと捉える |
CCがクラスターになれば企業姿勢が問われる | |
ライブハウスの二の舞にならないように我々業界者からの啓蒙が必要 | |
アウトソーサーの場合は委託元に対しての理解協力が必須 | |
つながらないという苦情よりも、「3密の放置」という評判のほうがブランド価値を毀損する | |
委託元としての企業姿勢を問う | |
サービスレベルが下がることを経営レベルで合意する | |
業務見直し | お客様に理解してもらう啓蒙活動(時短営業、接続品質の低下) |
営業時間の短縮 | |
稼働を下げる | |
「そのコールは、いま、そのサービス品質が必要なのか?」という視点でのコンタクトリーズン分析 | |
電話は止めてメール/チャット対応のみにする | |
「現在、受付けることができません」という社会的なアナウンス | |
コールバック形式をとる | |
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