「経験・勘・度胸」で育成はできない
継続意欲を高める“成長実感”を重視すべし
東京大学
大学総合教育研究センター 准教授
中原 淳 氏
「人手不足は、労働環境を改善する最後のチャンス」と言う東京大学の中原 淳准教授は、コールセンターに対しても「習得スキルやキャリアを業界全体で定義し、社会にアピールすべき」と提言する。また、継続意欲を高めるマネジメントとして「成長実感・エモーション・人間関係」の3要素に基づく教育と評価体制の必要性を強調した。
Profile
中原 淳 氏(Jun Nakahara)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米・マサチューセッツ工科大学客員研究員等をへて、2006年より現職。企業・組織における人々の学習・コミュニケーション・リーダーシップについて研究。近著に、「人材開発研究大全」(東京大学出版会)
──正社員だけでなく、アルバイトなど非正規雇用者にまでノルマの強制やサービス残業を求めるなど、殺伐とした職場環境の報道が目立ちます。
中原 日本企業の人材育成は、KKD(経験・勘・度胸)に依存しがちな傾向があったのですが、バブル崩壊以降、正社員教育については科学的なアプローチがされるようになりました。その一方で、非正規雇用の現場は取り残されています。非正規という枠組みは、「企業に縛られない自由な働き方」として市民権を得ましたが、経営者の観点から見ると、規則で行動を制限したり、権利を行使できない人々です。また、不況時には真っ先に雇用調整の対象とするバッファ的な存在なので、育成だけではなく人材マネジメントに関して経営資源を投じるという発想に乏しく、職場環境が悪化すると改善されにくい状況にあります。
──この状況からは脱却できないのでしょうか。
中原 人手不足を背景に、投資せざるを得ない局面となりつつあります。テンプホールディングスのパーソル総合研究所が調査した「労働市場の未来推計2016」では、日本の労働人口は2025年には583万人不足すると予測しました。このままでは、日本企業は事業の拡大はおろか存続すら危うい状況に陥るでしょう。既存の体制で乗り切るための生産性向上も、既に限界という現場が少なくない。AI(人工知能)やロボットによる業務自動化もトレンドではありますが、少なくとも数年のうちに、人間の介入なしで成立するとは考えにくいのが現実です。
「高時給」「誰でも出来る」はNG
体験価値の訴求で人材確保
──属性を問わず人材と向き合うべきということですね。
中原 これまで、組合や労働問題の専門家が労働環境の改善を叫んでも、企業の経営層は積極的に投資しようとはしなかったし、現場もほとんど変わりませんでした。未曽有の難局かもしれませんが、人手不足を「チャンス」と捉えて改革に乗り出す企業が勝ち残るのではないでしょうか。今の経営には、収益を伸ばすためにも、あらゆる職種で「人を採るための施策」が求められています。社会学者のカレンバーグによれば、仕事は、「Good Work」「Bad Work」に二極化していくと言われています。Good Workは、「創造的/個人の能力と給与は上昇/人間関係が良好な職場」を表します。一方、Bad Workは、「定型的/個人の能力と給与は上がらない/人間関係は険悪」で、多くの非正規の現場が含まれます。これは世界的な傾向ですが、日本は人手不足が深刻化したことですべての領域で採用するために経営資源を投下せざる得ないと認識されつつあります。自動化できるプロセスはそちらへの投資がメインとなるでしょうが、同時に労働環境やマネジメントの改善による人材定着もより重視されると思います。
──現状、コールセンターは、Bad Workに近い分野で、離職率も高い。定着性を高めるためのアドバイスはありますか。
(聞き手・横田麻生子)
続きは本誌をご覧ください