ヤプリ
解約率1%以下を実現・維持する
「分業」体制と「伴走型」支援
SaaSビジネスの成否で、重要なKPIのひとつが解約率だ。アプリ開発プラットフォームを展開するヤプリは、解約率を1%以下に維持。カスタマーサクセス部門の業務プロセスを細かく分業し、顧客の導入状況に応じたサポートを提供する。アプリの導入効果を具体的な成果として可視化し、徹底的に検証。KPI・KGI達成のために伴走する。ハイタッチ対応で利用率を高め、離脱しない仕組みを構築している。
ヤプリ(東京都港区、庵原保文代表取締役社長)は、ノーコードでアプリ開発・運用・分析ができるアプリ開発プラットフォームサービス「Yappli」と、顧客管理ができる「Yappli CRM」を展開し、小売り業や、アパレルをはじめとする業界で利用されている。
プログラミング不要でアプリを構築でき、顧客の登録情報や履歴を、管理画面で把握できるため、個々に合わせた施策の実施が可能。
2021年の売上高は32億円、22年には41億円を超え、導入社数は600社にのぼる。
1%以下の解約率
原動力は「CSM」の存在
SaaSビジネスで重要指標とされるのが解約率(チャーンレート)だ。米ベンチャーキャピタルのRedpoint Venturesの調査によると、SaaSソリューションの月間の平均的な解約率は、中堅中小企業で3〜7%程度。企業規模が小さいほど解約率が高くなる傾向があるという。ヤプリは、中堅中小企業でも1%以下と、大企業における水準を維持している。
低い解約率を実現している原動力が、約60名が在籍するカスタマーサクセス本部だ。カスタマーサクセス部、ディレクション部、CS企画部、アプリデザイン部の4部で構成。カスタマーサクセス部が、顧客とのコミュニケーションを主に担当する。具体的には、ディレクターが顧客ゴールの設定や全体の進行指揮をとり、制作支援を行うデザイナーと連携しながら、初期の導入支援(オンボーディング)をハイタッチで行う。その後、サービスを使いこなせるようになるまでのサポート(アダプション)を担うのがカスタマーサクセスマネージャー(CSM)だ。
執行役員兼カスタマーサクセス本部長の市川昌志氏は、「売り上げが拡大するスケール期にあたる当社にとっては、個人のスキルに依存しすぎない“誰もが適切なサクセス業務を実践できる体制”がチャーンレート抑止、売り上げ拡大に直結します。そこで、顧客の成功に欠かせないステップを『Yappli Success Journey』(図)として定めました」と語る。
これはオンボーディングから成果検証までをジャーニーマップとして可視化したもので、約20名のCSMが、顧客と伴走するためのプログラムにもなっている。STEP1の「アプリを作るうえでの目標や方向性の顧客との目線合わせ」から始まり、最後のSTEP5における「年間を通じての運用の振り返り」「成果を共に確認する」まで、一連の流れに沿って、取るべき対応を明示。顧客が“サクセス”を実現するまでに、何が不足しているのか、現在地はどこかを容易に把握できる。また、サクセス業務の具体的な手順が実体験を伴って理解できるうえ、経験を積むこともできるCSMの教育プログラムとしての側面もある。
同社には5つのバリュー(行動指針)があるが、「カスタマーサクセス」はそのひとつでもある。つまり全社的にカスタマーサクセスを志向しており、年に一度、全社でカスタマーサクセスに向き合う「CS Day」を設けている。人事部門や経理部門などの間接部門も、日々の業務で、いかにカスタマーサクセスを行うかを考える機会となっている。
利用する意図を理解
顧客のKPIやKGIを共に設定
この他、「Yappliを使い続けるメリット」を訴求するさまざまな取り組みを実践している。同社の顧客の多くは、マーケティング部門が占める。従って、「アプリ利用による売上向上など、期待されている成果は明確」という。
ところが最近では、社内向けやパートナー企業向けの導入が増え、ゴールが手探りななかで利用を開始するケースも増加。一般的に、SaaSソリューションは、利用停止のハードルが低く、成果が不明瞭な投資は、簡単に解約されやすい。市川氏は、「お客様のKPIとKGIを理解して“伴走”する必要があります」と強調。一例をあげると、予算削減のために、機関紙を紙からデジタルに切り替え、アプリで閲覧させたいという顧客に対し、費用を抑えるだけではなく、従業員満足度やロイヤルティ向上も視野に入れた提案を実施。KPI設定まで支援している。
市川氏は、「アプリは継続して運用いただかないと、目標は達成できません。楽しみながら運用を続けてもらうためにも、“プッシュ通知を1通送ると、どれだけインプレッションがあるか”など、小さな成功体験も積んでいただく取り組みも欠かせません」とポイントを説明する。
ヤプリの23年第1四半期の売上高は11億9000万円(前年比21.4%増)。今後、さらなる事業拡大が見込まれるなか、カスタマーサクセス本部に求められるのは「会社の成長戦略に合わせて柔軟に対処できる組織」と市川氏は考えている。具体的には、「企業の拡大期に安定した基盤を整えつつも、いかに攻めの組織で居続けられるかが、部の存在価値」という。そこで、ハイタッチ対応の強化と並行して自己解決ができるテックタッチ・ツールの活用や、導入企業同士のコミュニティ作りなども推進中だ。さらに、顧客の利用状況など、これまで蓄積したデータを、共有・分析などに活用できる環境整備の再構築を進めている。
(2023年9月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)