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2023年8月号 <キーパーソン>

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吉田 雄紀 氏

生成AIはオフィスワーカーの“副操縦士”
生産性低下招く「隙間仕事」の置き換えに期待

カラクリ
データサイエンティスト
吉田 雄紀 氏

PROFILE

吉田 雄紀 氏(Yoshida Yuki)

東京大学理科三類に進学し、医師免許を取得した後、東京大学大学院 新領域創成科学研究科に進む。人工ニューラルネットワークを理解するため、データサイエンティストの道を選び、量子コンピューティングの世界大会で優勝。2019年1月にカラクリに参画。

2022年末、OpenAIが提供開始したテキスト生成AIサービス「ChatGPT」は、瞬く間にユーザーを増やし、カスタマサービスでの適用も進みつつある。従来から脳科学や人工ニューラルネットワークを研究する、カラクリの吉田雄紀氏に生成AIの現在地と将来性について聞いた。

──社会全体で生成AIへの期待が高まっていますが、現状をどう見ていますか。

吉田 OpenAIが開発した「ChatGPT」は、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の操作性を高めることで、一気にユーザーを増やしました。具体的には、システムプロンプトの注入によって、例えば「あなたは何者で、このような言い方で説明してください」という制御が可能になった他、関数の呼び出し機能などを追加、さらに外部のソフトウエアとの連携も容易になっています。こうしたアップデートを重ね、“手なづけやすい”生成AIを実現しました。しかし、まだ何でもできる、という完成度ではありません。現状は、あくまでもビジネスユーザーにとって、部分的には有益というレベルです。

──現在、どのようなビジネスシーンで活用が進んでいますか。

吉田 例えばコールセンターでは、返信文の下書きや応対内容の要約、ナレッジのタグ付けなどです。従来からこれらの業務を自動化することは技術的には可能でしたが、開発には多くのコストと労力を要するため、汎用的な業務の一部程度しかAIに置き換えられませんでした。しかし、ChatGPTを使えば、その範囲は飛躍的に拡張し、AIに手伝ってもらいたいことのほぼすべてが実現できる可能性があります。業務を分解し、その一部をAIに置き換えるという発想で、あらゆるすき間作業の自動化も進むと思います。

──近年、LLMが飛躍的に進化した理由を教えてください。

吉田 学習を二段階に分け、最初の学習で「次に現れるもっともらしい言葉」をつなげて文章を生成し、自然な文章を作ることを会得。次に追加学習で、出力した文章が有意義なものか、人間が点数をつけて精度を上げています。2段階目の「RLHF(人間のフィードバックを使った強化学習)」と呼ばれる追加学習は、ニューラルネットワークを100倍に大規模化する以上の効果があるといわれています。ChatGPTのようにスケーラビリティのあるツールが登場したことで、多くのフィードバックが可能となり、さらに進化するでしょう。

──LLMは、今後もさらなる進化が期待できますか。

吉田 多くのベンダーが参入し、次のブレイクスルーを狙っています。ChatGPTがデータとして取り込んでいるのはテキストと画像のみですが、今後は、音声(聴覚)や匂い(嗅覚)などリッチな情報を取り込んだデータ処理が可能になるかもしれません。実現すれば、あらゆるオフィスワーカーが非常に優秀な副操縦士を横に置いて仕事を進められるようになるでしょう。

 

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