AIが相談者に寄り添う!?
ChatGPTが広げる法律相談の間口
弁護士ドットコム
執行役員 技術戦略室長 兼
Professional Tech Lab 所長
市橋 立 氏
法律トラブルを弁護士に相談できる掲示板サービス「みんなの法律相談」を運営する弁護士ドットコム。2023年5月、ChatGPTを利用した法律相談チャット「弁護士ドットコム チャット法律相談(α版)」を運用開始した。開発を推進した市橋氏に、司法への門戸を広げるAIの役割と可能性、ChatGPTの実用ポイントを聞いた。
Profile
市橋 立 氏(Ritsu Ichihashi)
弁護士ドットコム 執行役員 技術戦略室長 兼 Professional Tech Lab 所長
東京大学大学院工学系研究科修了後、アクセンチュアで新事業戦略・事業戦略・マーケティング戦略の立案および業務改革支援などに携わる。起業を経て、2014年1月に弁護士ドットコムに入社。2016年6月からLegalTech Lab所長、2020年4月から技術戦略室室長、同年6月からクラウドサイン事業本部プロダクト統括も兼務。
──システム開発者という立場で司法業界に関わられていますが、同業界のDXの現状と課題についてお聞かせください。
市橋 司法業界のIT活用はまだ十分とは言いにくい状況です。実際、業界団体である「日本弁護士連合会」から送付される案内をはじめ、情報伝達手段としてFAXが利用されている点をみても、我々開発者としてもさらなる推進を目指せると思っています。
相談者の立場からみると、法律で対応すべきトラブルに遭ってから弁護士を尋ねて裁判の手続きまでたどり着く割合は2割程度に過ぎない、いわゆる「2割司法」が問題となっています。2007年から運営している「みんなの法律相談」は「弁護士と相談者を結ぶマッチングサービス」と位置付けており、相談者にとって法律相談のハードルを下げることが目的です。ここにITを活用して、さらに多くの方に利用してもらいたいです。
まず、法律に関する相談者の知識ギャップを埋めるためにも、気軽に相談できる窓口が必要です。一次接点として、AIが相談者の質問に回答するサービスがあれば、相談者に正しい理解を促すことができ、結果的に弁護士に依頼する機会も増えるはずです。「2割司法」解決の一助となると考えています。
──司法の正確性を担保するという面でも、法律とAIは親和性がありそうです。
市橋 憲法から条約、省令に至るまで厳格なルールが存在するため、司法業務におけるAI活用は親和性があるといえます。当社では、まず2015年頃から普及し始めたAIソリューション「IBM Watson」の期待値を探ってきました。当時は求めるコミュニケーション・レベルに達しなかったため実用化に至りませんでしたが、幾度もAI活用を模索してきた経験から、ChatGPTがリリースされてからは、比較的早い段階でAIチャットの開発に着手できました。
──先日リリースした「弁護士ドットコム チャット法律相談」の概要を教えてください。
市橋 当社が運営する無料法律相談サービス「みんなの法律相談」に寄せられた、累計125万件の相談データをベースにChatGPTを活用して構築したサービスです。もともと「みんなの法律相談」は、弁護士が質問者の投稿に回答する掲示板です。「無料で法律相談できる」という手軽さを追求すべく、従来からAIによる自動応答を目指してきました。ChatGPTの自然なコミュニケーション、配慮した言葉遣いができる点などが、求める相談対応のレベルに達していると判断し、リリースに至りました。試験運用中のα版では、離婚や浮気などの男女問題に関する法律相談に限定しており、今後は交通事故、相続、労働問題などのカテゴリの追加を検討しています。
24時間いつでも無料で、1日5回まで相談可能です。回数を限定しているのは、AIの対応には限界があり、解決するには必ずどこかのタイミングで弁護士にエスカレーションする必要があること、ChatGPTの利用にコストがかかることから、むやみに相談回数を重ねることを防ぐ目的があります。弁護士法に基づき、弁護士や弁護士法人以外の組織が報酬目的で法律事務を扱うことは禁じられているため、しばらくはAIチャットによる相談対応は無料で提供していきます。
(聞き手・彦坂 宗次郎)
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