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本誌記事 インタビュー sasket 山田 ひさのり 氏(2)

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People インタビュー

コミュニティ運用からChatGPTまで
「サポート/サクセス部門」の進化を予測

日本におけるカスタマーサクセスの伝道師のひとりである、sasketの山田ひさのり氏。前号に引き続き、「サポートとの関係性」を軸にしたサクセスの実践ポイントを聞く。今回は、カスタマーサクセス部門でも運用が増えているコミュニティ活動、ChatGPT(大規模言語AI)の適用について聞いた。

山田 ひさのり 氏
sasket
代表
山田 ひさのり 氏
ゲームプログラマーとしてキャリアをスタートし、Web開発のPG/SEを経て事業開発にキャリアチェンジ。2013年、Sansanに入社。のちにCS部門の責任者を歴任。現在はsasket LLCを設立し、IT企業へのCSアドバイザリーに従事している。『カスタマーサクセス実行戦略』(翔泳社)の著者。

──コールセンターでは、VOC(顧客の声)の収集も大切なミッションのひとつです。カスタマーサクセス部門も同じく顧客接点ですが、VOC活動はどのように捉えていますか。

山田 ひとつのトレンドとなっているのがコミュニティ運用です。これまで、製品やサービスに磨きをかける、つまり改良や開発の素材としては、マーケティング部が収集する「まだ製品を使っていない人を対象とした消費者の声」が中心でした。言い換えれば、「誰にでも好かれるもの」を目指していたわけです。ところが、モノがあふれるいま、「A社のパンでもいいや」というレベルでは永続的な収益は期待できません。「絶対にA社のパン」と思ってもらうには、差別化を図る必要があります。

 そうした背景から、VOCのソースが「自社と製品を本当に愛してくれる人の声」へとシフトしはじめています。ファン、ロイヤルカスタマーなどさまざまな言い方がなされますが、彼らといかにコミュニケーションし、その意見を製品に反映、還元していくかということが企業の競争力そのものになりえます。ユーザー同士で「企業や製品に対する愛を語れる場(コミュニティ)」をつくり、そこで聴く声をひとつのデシジョンの起点とする試みが、ひとつのトレンドになっています。

──コミュニティの効果や運営ポイントについて教えてください。

山田 投稿される声を通して、自分たちが目指し、実行してきたことの正しさや製品/サービスの長所を再確認でき、同時に批判を含めた客観的な意見も把握できます。お褒めの言葉は、社員のモチベーションにもつながります。

 また、クレーマーがファンになるというのもよく聞く話ですよね。クレームに限らず、意見をいただける方はロイヤルティが高い傾向が強いです。私自身、Sansan時代にそうしたタイプのお客様は積極的にコミュニティにご案内していました。知識が豊富でアドバイスをしたいモチベーションのある方が多く、コミュニティの盛り上げ役になりやすい。他のファンと意見を交わして共感し、議論する中で、当事者意識が強くなり、企業の一員のような応援者になっていくケースは多くあります。インフルエンサーは意図して創るというよりも、コミュニティなどで環境を提供すれば増えていくと思います。

目的はLTV向上ではない
コアな1%とのつながり深化

──コミュニティは、はじめたものの閉鎖する事例も多いです。

山田 失敗事例で多いのが予算削減による撤退です。最大の原因は、「コミュニティ参加者のLTVを高め、その数の最大化を追求する」という目的ではじめてしまうことにあります。確かに参加者は強烈に自社のソリューションやサービスを愛してくれている人ですが、その総数は顧客全体の1%に満たないはず。参加者のLTVを上げたところで、売り上げ全体が拡大する保証はありません。結果、広告への予算投下と比較され、「効果なし」との判断から撤退するケースは多くあります。

 だからこそスタート地点で、「1%のコアな人たちとつながることが10年後の自社にどのように影響するか」というビジョンを言語化しておくことが重要です。コミュニティで集めるVOCを意思決定のひとつの要素と捉え、深い関係構築の場にすることは、中長期的に有益なものとなるはず。まずはコミュニティの位置づけを明確にし、全社で共通認識としておくことをおすすめします。

──サポートやサクセス部門は、今後どのように変化していくと思われますか。

山田 ChatGPTをはじめとする大規模言語モデルをベースとしたチャットボットなどが普及すると、極論すれば「サポートしなくても良い環境」になる可能性は高い。そうなったとき、サポート部門とサクセス部門は、役割が高度な視点で融合する可能性があると見ています。実際、ゼロからサクセス組織を作るよりも、既存のコールセンターのアセットを活かし、組織としての役割を構築し直す方が軌道に乗せやすいのではないでしょうか。本来はコールセンターもそこを目指しているはずなのですが、今は規模追求の弊害でルーチンワークが主体となっています。テクノロジーの発展に伴い、本来の目的に回帰するのは自然なことだと思っています。

 (サポート部門に)ひとつ課題があるとしたら、ルールに基づいたルーチンワークからの脱却です。AIが普及した後に残るサクセス業務は、データを分析し、プロアクティブに顧客にアプローチしていくマインドと手法が求められます。人間の本質として、コミュニケーションを通して信頼関係を築くことは大きなやりがいを見出せるプロセスです。現在のコールセンターのオペレータにとっても、カスタマーサクセスのミッションである「顧客との長期的な関係性を構築していく業務」は、モチベーションになりえるのではないでしょうか。

──サクセス領域でChatGPTを利用する可能性は。

山田 オンボーディングやリニューアル(更新)時のフォローアップなどでは近い将来、適用できると思います。例えば、利用開始前のフェーズで状況に合わせたフォローをAIで実施したり、利用率が健全で継続見込みが高いクライアントに「利用状況に問題はなさそうですが、継続されますか」などの継続意向を自動配信で行うことができそうです。一方で、チャーン抑止──つなぎとめはしばらく人手対応が続くと思います。

 ITに関する私自身の基本的な考えは、まず全フェーズをテクノロジーベースで設計して、どうしても自動化できないところだけを人手で対応すべきというスタンスです。ITの適用範囲は「ルーチンン業務かイレギュラー対応か」が判断基準です。

(2023年6月号 月刊「コールセンタージャパン」掲載)

 

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