<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
監視の目
秋山紀郎
凶悪事件の解決や行方不明者の捜索に、監視カメラが欠かせない時代になっている。未だ解決していないと聞くと、もっと監視カメラが多ければ……と思わなくもない。犯罪が多い米国には、顔認証、自動車ナンバー読取装置、警察官のボディカメラ、銃声の検出など、多様な監視ツールがあり、「Atlas of Surveillance」という監視地図サイトに掲載されている。ここまでいくと、信号無視した車の運転手の自宅に自動的に違反切符を郵送、そればかりか反則金の自動引き落としも技術的には可能だろう。
監視の仕組みは、カメラだけでなくSNS上でも起きている。有名ユーチューバーの瞳に映った景色で自宅を特定されたり、赤信号の短い横断歩道をうっかり渡っただけで炎上したり、ちょっとした発言を切り取られて人権問題を提起されることもある。有名税で片付けられる問題では決してない。誰もがスマホを持ち、情報を発信できる現代において、ストレス発散や自己アピールのための書き込みをしているケースは論外であるが、「世の中を良くする」という正義感の場合が厄介だろう。
過度な監視が人の意識を変えてしまうこともある。ビジネスでもプライベートでも、炎上を避けるには「目立たないこと」となりかねない。つまり、いざこざがなく、平穏無事に済ませるために、消極的な態度で過ごすという姿勢だ。その結果、「見て見ぬふり」や「空気を読んでもめごとを回避」という風潮が染み渡ると、競争力まで失われる。消極姿勢が中心の企業から良い商品が生まれるはずがない。そして、この状況に危機感を抱いている代表例がテレビ業界だ。テレビが面白くなくなったと言われるようになった。特集で、昔の番組やCMを見ると、以前は過激だったが面白かったと素直に感じてしまう。今の時代であれば、アントニオ猪木の闘魂注入ビンタは一発アウトであり、流行することはなかったはずだ。同時に、アントニオ猪木を見て元気が出る人がいない世の中だったということになる。
まるで監視社会のこの状況で、炎上せずに積極姿勢を貫くのは簡単ではなさそうだ。監視の目をかいくぐって悪行を働いたり、無名のユーチューバーが目立とうと無理をして一発を当てに行くような社会も好ましくない。失敗しないことを良しとする社会ではなく、失敗しても再びチャンスがあるような世の中でなければならない。
SNS上にさまざまな情報があふれ、同時にデータ分析技術が進化してゆく流れを止めることはできない。ただし、このままではリスクを負わない立場の人だけが強い発信力を持って大きな組織や有名人を攻撃し、その結果、社会が委縮してしまう未来も否定できない。コンタクトセンターのオペレータをつかまえて、正義を振りかざし、一方的に怒る人もいる。それに対して、レピュテーションリスクを恐れ、架電者に謝罪する対応がいつも正しいとは言えないだろう。現場の負担も大きい。反転攻勢とまでは言わないが、毅然とした対応をとるという選択肢を持つべきである。その結果、理不尽な内容でSNSに投稿されたとしても、世間は正しく判断するということに期待したい。それが監視の役割でもある。