人事が変われば組織が変わる!
「透明」「公平」「個人の尊重」がポイント
東京都立大学
経済経営学部 准教授
西村 孝史 氏
ビジネスを作るのは人だ。「人への投資」や「組織の多様性」が、企業価値を測る指標にもなっている。人的資源管理論を研究する西村孝史氏は、「価値観が多様化する組織では、戦略的かつ丁寧なコミュニケーションが欠かせない」と強調する。雑談の重要性や、主体性を活かすキャリアパスのあり方を聞いた。
Profile
西村 孝史 氏(Takashi Nishimura)
東京都立大学 経済経営学部 准教授
日立製作所にて人事業務に従事後、2005年に同社を退職し大学院に進学。2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(商学、一橋大学)。徳島大学、東京理科大学勤務を経て2013年より現大学に勤務。2021年4月から2022年3月の間、Henley Business School of Reading visiting scholarとして滞在。
──あらゆる産業が人手不足に陥りつつあります。企業の人事戦略の転換について考えを聞かせてください。
西村 従来の人事施策は、基本的に企業の視点で設計されており、個々人の希望や事情は最低限しか反映されていませんでした。今後は、企業側の都合だけでなく、従業員に寄り添う人事施策も重視すべきです。例えば、従来の正社員モデルは、雇用を守る代わりに、転勤や配置転換への拒否権はないのが当たり前でしたが、そのやり方は通用しません。個別の事情に配慮し、働き方の多様性を認め、従業員の希望を尊重しなければ、優秀な人材は採用できず、離職は増えるばかりです。実際、すでに夜間勤務に対するインセンティブ制度や、転勤や異動がない限定正社員というポジションが生まれ、従業員が自身の価値観で働き方を選べる仕組みが整いつつあります。
──ジョブ型雇用もそのひとつですよね。そうなると、育成の方向性も変わりそうです。
西村 日本は職務を明確化する方向に動いていますが、欧米のジョブ型雇用は環境変化に対応するためにむしろ職務の定義を緩やかにする方向にあり、ベクトルが逆です。同時に、国内企業は、各国と比べて人材育成への投資が低すぎると指摘されています。不確実性の高い時代を生き抜くには、既存のビジネスを継続するだけではなく、違うものを組み合わせて新たなビジネスモデルを作り出せる人材が不可欠です。そうした「0から1を生む」人材を予測する数値として企業が育成にどのくらい投資しているかに注目が集まっています。
──人事がもたらす成果を可視化する必要がありそうです。
西村 人事は、営業やマーケティング、開発などと同様、いや、それ以上の経営課題といえます。問題は、経営視点で人事を考えられる人材が不足しているということ。必要な頭数を揃えた配置のような単純なタレントマネジメントに終始するのではなく、財務指標と人事施策を紐づけて経営者と対等に話ができるCHRO(チーフ・HR・オフィサー)の育成が喫緊の課題です。残念なことに人的資本経営やSDGs、ESGなどの課題について人の専門家である人事部門ではなく、他部門が取り組んでいる企業が多く見られます。
戦略的な考え方と同時に、多様性を進めるための積極的なトライ&エラーが必要だと思います。例えば、ダイバシティやインクルージョンは、組織全体のパフォーマンスを上げると言われています。以前、Jリーグのチームについて研究した際、ワールドカップ出場経験者をはじめ、ベテラン選手が全体のパフォーマンスを高めるという結果が出ました。職場でも、正社員と非正規社員、年長者と若者などのポートフォリオ(構成比)は、職場の雰囲気やモチベーションに影響します。その職場にとっての最適なポートフォリオを模索し、多様化を進めましょう。
(聞き手・石川 ふみ)
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