<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
ユーザー企業の役割
秋山紀郎
コンタクトセンターに導入されるソリューションとしてクラウドサービスが増えている。クラウド利用の利点のひとつとして、情報システム部門の負担軽減がある。標準機能を使えば導入時の困難な要件定義から逃れられ、開発テストの工数も極小化できる。稼働後の保守やアップグレードの悩みも少なくなる。IT人材不足が叫ばれる状況下、クラウド利用はますます広がるだろう。
しかし、クラウド普及がユーザー企業の目利き能力や問題解決力を弱めてしまうという課題もある。自社の業務分析が甘いまま、メジャーなクラウドサービスを選択してしまうケースも少なくない。POC(Proof of Concept)を、お試し利用と誤解して、検証目的が不明瞭なまま開始して頓挫したり、プロジェクト期間中にクラウドサービスの不適合に直面したり、オプションサービス選択やユーザー数が当初より増えてしまって思わぬコスト増に陥るケースなど、深刻な事象も起きている。このような状態のユーザー企業から、そしてベンダーからも相談が増えている。根本原因はどこにあるのか。例えば、POCは、サブスクリプション・サービスのトライアル導入ではなく、自社特有の業務や新たな概念の実現可能性を試用によって検証するものなのだが、クラウドPBXの動作を試したり、音声認識率を把握するようなものも多く見られる。安価だからと言っても、なぜ無意味にベンダーを巻き込むような依頼をしてしまうのだろうか。また、自社の業務の特性やTo-Be像を見極めずに、クラウドサービスで良いものは何かを求める姿勢も、よくある間違いだ。プロジェクトの進め方を正しく理解していないユーザー企業が多いのではないだろうか。
ユーザー企業、とりわけ情報システム部門は、外部への丸投げ体質になってはならない。解決策や知見の提供だけを求めるようでは、うまく行かない。ジョブ型雇用の米国などでは、ユーザー企業の担当者が自分の問題として課題に向き合い、「解決するには、どうしたら良いかアドバイスが欲しい」とか、「自社の状況を丁寧に伝えつつ、一緒に考えよう」という主体的な姿勢がある。ユーザー・コミュニティの活用が盛んに行われるのは、このためであろう。だから、プロとしての責任感やスキル、意識も高い。
そうした中、ユーザー企業における情報システム部門の役割を見直す事例が見られる。ベンダー依存を減らした内製化の動きだ。IT子会社の活用や外部人材の常駐などの試行が始まっている。しかし、外部に流出したITスキルを取り戻すのは難しく、時間もかかるだろう。
コンタクトセンターのソリューション構成は、本当に複雑化してきた。通信回線、PBX、CRM、FAQ、VOC活用など、それぞれ単独の製品もあれば、総合的な複合サービスもある。他社サービスとの連携による機能提供もある。これは多くのベンダーがしのぎを削ってサービス展開を進めている成果でもある。クラウドの普及により多機能のセンターをすぐに始められる利点があるが、既存ビジネスをクラウドに置き換える場合には、どのサービスを選択あるいは組み合わせるのか、プロジェクトの難易度は高いということを強く心にとどめていただきたい。