<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
来店予約
秋山紀郎
以前から携帯キャリアの店舗に来店予約の仕組みがあり、何回か利用していた。最近は、3密回避をきっかけとして、銀行や証券、旅行代理店、ショールームなど、来店予約を進める企業が続々と増えている。
先日も来店予約をして、携帯キャリアの店舗に行く予定を立てていた。前日に確認のためのショートメッセージが届き、当日の1時間くらい前にも予約時間が近づいているとメッセージが入る。念押しがキツイと思いつつ、時間通りに店舗に行った。土曜日の午後だったためか、明らかに店舗は大混雑しており、空きのブースはない。前の人の対応が長引けば、時間通りの案内が難しくなるのは仕方ない。目の前の老夫婦がスマホの基本的な質問をしている様子も伺えたし、我慢して待っていた。しかし、待つこと30分、どのブースも空かず、一向に案内されない。店舗の人も、接客の合間に私に声を掛けてくれてはいたが、ブースが空かないことにはどうにもならない。次の予定が迫っていたため、やむを得ず、声を掛けてくれたタイミングで簡単な質問で済ませて、本来の目的を諦めて店舗を出た。
数日後、前回の続きのため、改めて来店予約をした。今度は朝一番の時間帯だ。予約時間の少し前に店舗に行ったが、また全部のブースが埋まっていた。予約をしたのにどういうことか? と、イライラしながら、ふと看板を見てみると、「来店予約をされますと、お客様を優先的にご案内いたします」と書いてあった。「そうか。予約時間にブースを空けておくのではなく、あくまでも優先案内ということなのだ」と、初めて来店予約の意味を理解した。幸い10分程の待ち時間でブースに案内されたので、今度は目的を達成できたが……「来店予約」とは何なのか、と私は困惑してしまった。
レストランの予約、会議室の予約など、その場所や空間をあらかじめ決めた時間に確保してもらっているのが予約だと思う。だから利用者が遅刻して予約時間に到着しなければキャンセルになるのも仕方ない。広辞苑にも「予約とは、あらかじめ約束すること。また、その約束」とある。私が行った携帯キャリアの来店予約は、客が訪店時間を約束しているが、店舗はブースの確保を約束していない。その時間に優先案内をするということであり、ブースを空けて待っているのではない。そうであれば「時間通りに行かないとキャンセルになる場合がある」という注意や「ご予約時間が近づいてきました」という案内は、とくに要らないと思う。もはや来店予約ではなく、優先案内時間なのだ。来店予約と言うなら、その時間にブースを空けておいてほしい。
調べてみると、他の来店予約についても、優先案内にとどまるものが多く見られた。これは注意が必要だ。病院や歯医者の予約のように、急患の影響で予約時間通りにブースが空かないケースが生じる予約もあるが、これは仕方ない。一方、私がよく利用する弁当のテイクアウト予約は、予約時間の10分前には出来上がっているので、少し早めに行かないと料理が冷めてしまう。ものごとを時間通りに進めるのはとても難しいとは思う。しかし、来店予約の定義がまちまちだと、利用者は混乱してしまう。