<著者プロフィール>
あきやま・としお
CXMコンサルティング
代表取締役社長
顧客中心主義経営の実践を支援するコンサルティング会社の代表。コンタクトセンターの領域でも、戦略、組織、IT、業務、教育など幅広い範囲でコンサルティングサービス及びソリューションを提供している。
www.cxm.co.jp
インフラ見直し
秋山紀郎
富士山がより美しい季節になった。写真を撮ろうとすると、残念ながら電線が映り込む……。国土交通省によると、日本には3000万本以上の電柱があり、毎年増え続けているという。街中に電柱があると、景観は良くないし通行の妨げにもなるから、街の風景を重視するヨーロッパなどに習って、日本でも電線を地中に敷設して電柱を減らす動きはある。「無電柱化の推進に関する法律」というものもある。しかし、今から日本全体の工事をするとなると、想像できないくらいの時間とコストがかかるだろう。地中に埋めた電線に異常が発生したときは、果たしてどのように早期復旧させるのだろうか。いずれにせよ、これほどまで多くなった電柱をなくすのは、至難の業であろう。
首都圏の各駅では、ホームドアの設置工事が進められている。車両形式によってドア位置が異なるため、さまざまなタイプのホームドアがあり、多額の費用と時間がかかる原因になっているようだ。ホームからの転落事故防止の声が高まり、後付けで工事しているから設置スペースの確保も難題に違いない。ホームドア設置が前提で、駅のホームが作られたのであれば、もう少し見栄えも使い勝手も良いと思う。設備完成後の追加インフラ工事は、本当に大変だ。
技術の進化や価値観の変化とともに、インフラの見直しが生じるのは仕方ないとは思うが、実は意外に多い。地震が多い日本にとって、道路や橋、上下水道をはじめとした土木関係や公共施設のインフラ老朽化問題は深刻だ。また、通信技術、テレビ放送技術、照明器具などにも規格変更が起きており、私たちもその対応に追われることがある。我が家にもVHSビデオテープが山ほどあるが、デジタル移行できていない。
そして、コンタクトセンターに欠かせない電話網にも、インフラの見直しが進められている。固定電話の契約数が減り続ける中、公衆交換電話網(PSTN)の交換機の維持限界が2025年にやってくる。いわゆるIP網への移行で、10年以上前から検討作業が進められている。並行して、各企業のコンタクトセンターシステムのIP化も進められているが、その恩恵という形で、現場に変化があまり起きていないと思う。例えば、オムニチャネル対応ができていると言えるセンターは少ない。また、顧客が持つスマートフォンの機能やユーザーの動線を考慮したコンタクトチャネルの設計も不十分だ。
これらのインフラ見直しを踏まえると、先を見越した計画がいかに重要か分かる。そして、IT設備を持たないクラウドサービスの採用が加速化する理由の一つにもなっている。しかし、クラウド採用がすべての問題を解決するのではない。サービスが突如停止して、業績に大きな影響が出るリスクがある点も考慮しなければならない。そうだとしても、インフラ更新作業に悩まされることがないクラウドのメリットは大きい。クラウド採用によって、コンタクトチャネルの統合を実現し、顧客が希望するチャネルでスムーズなコミュニケーションを実現してほしい。そのためにはコミュニケーション分析や業務分析が欠かせない。先進的な企業では、次世代のコミュニケーションとは何か、その議論が始まっている。