<著者プロフィール>
ビジネスボイストレーニングスクール「ビジヴォ」代表。「声」「話し方」に問題を抱えるビジネスパーソンを4万人指導。250社の企業研修を行う。音楽家ならではの聴力と技術を駆使した、「超絶対音感」によるボイストレーニングが話題を呼び、TVなど多数出演。著書に『「話し方」に自信がもてる 1分間声トレ』『ビジネスの発声法』などがある。
部下の成長を促す! 理想の上司の発声法
秋竹朋子
部下を持つ立場になると、職場での声の重要性を認識する人は少なくありません。
部下の知識・経験の不足を教育で補い、会社にとって有益な人材へ成長させる。自らが現場で業務をこなすのとは、まったく違う技術が求められます。指導、育成する際のテクニックは色々ありますが、発声の工夫でも、部下への伝わり方は変わります。部下との信頼関係を築き、成長を促す発声のポイントを解説します。
まず、基本は「相手の立場になること」です。これは、部下に対してだけではなく、顧客や上司、さまざまなビジネスシーンで共通することですが、相手が心地よいと感じる話し方をするだけで、より伝わりやすくなります。私も研修などでさまざまな方を指導させていただくことがあるのですが、そのときは、相手に合った話し方として、「ペーシング」を意識しています。これはカウンセラーやセラピストも活用している実践的テクニックで、声や呼吸をシンクロさせることで一体感を生み出し「相互共感関係」を作るというものです。ペーシングで得られる一番の効果は、「共感してくれている」「聞いていてくれている」と相手に感じてもらうことです。共感を示す声のポイントは、「速度」「トーン」「呼吸」の3つ。話すスピードを合わせ、声の高さやボリュームも、相手の状態を見て相手に合わせて調節します。上級者は話す速度だけでなく、声の音程や大小、呼吸のリズムも相手に合わせます。ビジネスシーンだけではなく、落ち込んでいる人を励ましたいときや、喜びを祝福したいときなどプライベートでも活用できる汎用的なテクニックです。
次に、シーンに合わせた最適な声になる、発声テクニックを紹介します。人材育成の場面での上司の主な役割は、「叱る」「ほめる」「励ます」「諭す」という4場面に集約されます。それぞれに適した声や話し方があり、巧みに使い分ける必要があります。
まず叱る場合は、腹式呼吸を使った低めの声で、なるべく短く簡潔に伝えます。ただし、低い声のままで終わらせず、最後は声のトーンを上げて締めるのがポイントです。叱る者の声が上向くと、部下の気持ちも前を向きやすい。相手の成長を促す「叱る」と、自分の感情を爆発させる「怒る」を混同しないようにしましょう。
次に、ほめる場合は、口角を上げて、明るい声で発声します。驚きを伴ってほめるときは、「すごいじゃないか」と2音目を高くする。その上げ幅が大きいほど、感心している気持ちが伝わりやすくなります。
落ち込む部下の気持ちに寄り添って励ましたい場面では、あえて吐く息の量を減らし、声のボリュームを落としましょう。早口は適当に励ましている印象になりやすいため禁物です。
不満を抱く部下を納得させるよう諭すときには、まず言い分をきちんと聞くことです。ただし、曖昧な表現や「気持ちはわかるが」といった中途半端な懐柔は、モヤモヤした気持ちを残しやすいのでNGです。迷いのない明確な言葉を使い、やや低めの声ではっきりと最後まで言い切りましょう。
ペーシングと、シーンに合った最適な声を使って、部下に響く指導を実践してください。