緊急寄稿
欧米マネジメントとの徹底比較
コロナ渦で露呈した国内センターの弱点
新型コロナウイルス感染症によって、コールセンターの運営が揺らいでいる。「在宅化」を訴える現場の声に対して、情報セキュリティに不安を抱える経営/マネジメントは二の足を踏んでいる。都市のロックダウンなど、日本以上に深いダメージを負っている欧米各国のセンターはどのような対応を取っているのか。各国のスペシャリストと親交を持つイー・パートナーズの谷口氏が緊急寄稿する。
2020年初頭までのコールセンター業界は、ますます拡大するオムニチャネルやAIの導入によるハイブリッド運営の方向に関する議論が中心だった。しかしながら、3月以降には業界の関心事は一変。日本全国場所を問わず、「新型コロナウイルスのパンデミック対策」が喫緊の課題となっている。
今や、採用難や既存センター要員の働き方改革などという従来の課題に関する議論は大幅に減り、センター業務をいかに継続できるか、3密状態をいかに解消するかといった、リスクマネジメントが議論の中心となっている。
パンデミックは全世界的で同時並行的に起こっているため、海外のコールセンター業界でもコロナリスクへの対処と、来るべきコロナ終息後の“新常態“についての議論が盛んに行われている。日本より厳しい外出規制やロックダウンが続く欧米大都市の、このコロナ禍の2~3カ月は日本とは明らかに異なり、劇的な変化を遂げている。
その違いについてレポートする。
欧米で一挙に進んだ
オンショア、インハウス、ホームショア
これまで、英語圏の先進国では「フォロー・ザ・サン政策*」および、賃金格差を利用したインド、フィリピン、アイルランドなどでの「オフショア運用」が盛んに行われていた。ところが、コロナ禍での入国禁止措置や国内での外出禁止措置など移動制限が発令され、オフショア・リスクを脅威とした欧米諸国のコールセンターは、一斉に「オンショア化」へと舵を切った。
*フォロー・ザ・サンとは、「太陽をおいかけるように」という意味で、世界中の拠点を連携しながら24時間365日のサポート体制を構築すること。
これは見方を変えれば、オフショアで運営委託をしていたBPOベンダーから、いざという時には自力でコントロール可能な国内自社センターへの回帰、すなわち「インハウス化」が進んだといえる。BPOリスク、とりわけ海外BPOへの依存の解消が可及的速やかに必要だと見られたのだ。
とはいえオンショア化、インハウス化を目指したとしても、現在の移動制限が多い状況で、国内のセンター規模を急増させることは容易ではない。センターに通勤するオペレータにとって、「コールセンター」そのものがリスク要素であることには日本も欧米も変わりはない。
そこで、欧米のセンター・マネジメントは躊躇なく「在宅エージェント化」に舵を切った。いわゆる“ホームショア”化を一気に推し進めたのだ。有事とはいえ、オンショア化、インハウス化、ホームショア化をわずか四半期で実現してしまった彼らの実行力には脱帽する。
もちろん優れたマネジメントが存在する先進コールセンター企業から順に実現されつつある状況なので、すべてのセンターで実現しているわけではない。移行は雪崩を打って進んでいる最中だ。これを裏付けるように、NACC(National Academy of Call Center:非営利団体)が加盟各社を対象に4月に調査したレポートでは、最も注目しているトピックは「在宅エージェント」であり、回答企業の52%が「今後も在宅エージェントを増やす」と回答している。「在宅エージェントを減らす」と回答した企業はわずか5%である。
コロナ渦の欧米で
在宅エージェントが進んだ理由
なぜ、欧米のコールセンターでは一気に在宅エージェント化を進めることができたのだろうか?
それは、前述のリスク要素を解消する唯一の施策は在宅ワークであり、すべての業種において社内組織の在宅ワークが機能することが証明されている以上、コールセンターの運営においても必要不可避な事業継続施策であることをセンター責任者も経営層も理解しているからである。また、これまでの20年におよぶ在宅エージェントを組み入れた運営実績が業界全体でシェアされているなど、具体的な方法論の蓄積と現場運用の知見があるためだ。
結果、コロナ以前の在宅エージェント比率は、おしなべて20%程度だったものが今年の第1四半期で一挙に90%以上となった。安定的な継続運営を必須要件とするコールセンターでは、クラウドソリューションが一般化していたこともあって、リスクを最小化する在宅エージェント運営を戦略の機軸に据えたのだった。
これによってコロナ禍中であってもコールセンターの安定稼働を実現したのが欧米の実態である。参考までに、以下に米国における在宅エージェントの実態をまとめている。
日本出遅れの原因は
戦略、スペシャリスト不在、ITの活用不足
コンタクトの自動化対応やAI支援などの領域では、日本は欧米先進センターに遅れること1~2年程度とみていたが、今回のリスク対策の実態を勘案すると、在宅率90%を達成するには5~6年はかかるのではないかと思える。
ギャップの最大の原因は、専門性を有するセンター責任者やスペシャリストの存在がひとつ。そして、もうひとつが高い自由度のもとでセキュリティやITリソースなどを活かす現場の能力差であろう。また、経営層も含めたマネジメントの明確な戦略決定がカギとなるが、そもそもこれが心もとない状況である。
とはいえ既に海外にはお手本が存在するので、これからはいかに早くキャッチアップするかが日本のコールセンター業界の真価が問われるところだ。
コールセンターが追及すべき本質
コロナ禍以降、多くのセンターでは想定を超えるコンタクトの量が記録されただけではなく、想定していた問い合わせ内容ではないコンタクトが押し寄せ、想定していたルールやプロセスが機能しない事態となり、各社パニックに見舞われた。オムニチャネルや自動化を進めてきたセンターは多いが、コロナの危機に際して自動化手段で納得する顧客は少なく、システムの隙をかいくぐってオペレータと会話や対話をすることを望むケースが大半を占める。
決まったプロセスのトレーニングだけでは、危機状態の感情的なコンタクトに対応できないことも明らかになり、ナレッジの限界が露呈した。
疲弊するオペレータには心理的ケアが必要となり、コールセンターとして「人でしかできない応対」とは何か、「人がやるべきコンタクトに集中できる仕組み」はどのようなものであるかという、「CSの本質」の重要性を改めて認識することになった。
そもそも安心・安全が確保されてこその顧客対応業務である。まずは移動制限があっても問題なく稼働できる在宅ワークの仕組みを整えること、とりあえずは運用できる環境を作った上で、追い求めるべき業務プロセスと効率・品質の議論をする優先順序を間違えてはならない。
欧米マネジメントとの徹底比較
コロナ渦で露呈した国内センターの弱点
イー・パートナーズ 谷口 修
新型コロナウイルス感染症によって、コールセンターの運営が揺らいでいる。「在宅化」を訴える現場の声に対して、情報セキュリティに不安を抱える経営/マネジメントは二の足を踏んでいる。都市のロックダウンなど、日本以上に深いダメージを負っている欧米各国のセンターはどのような対応を取っているのか。各国のスペシャリストと親交を持つイー・パートナーズの谷口氏が緊急寄稿する。
2020年初頭までのコールセンター業界は、ますます拡大するオムニチャネルやAIの導入によるハイブリッド運営の方向に関する議論が中心だった。しかしながら、3月以降には業界の関心事は一変。日本全国場所を問わず、「新型コロナウイルスのパンデミック対策」が喫緊の課題となっている。
今や、採用難や既存センター要員の働き方改革などという従来の課題に関する議論は大幅に減り、センター業務をいかに継続できるか、3密状態をいかに解消するかといった、リスクマネジメントが議論の中心となっている。
パンデミックは全世界的で同時並行的に起こっているため、海外のコールセンター業界でもコロナリスクへの対処と、来るべきコロナ終息後の“新常態“についての議論が盛んに行われている。日本より厳しい外出規制やロックダウンが続く欧米大都市の、このコロナ禍の2~3カ月は日本とは明らかに異なり、劇的な変化を遂げている。
その違いについてレポートする。
欧米で一挙に進んだ
オンショア、インハウス、ホームショア
これまで、英語圏の先進国では「フォロー・ザ・サン政策*」および、賃金格差を利用したインド、フィリピン、アイルランドなどでの「オフショア運用」が盛んに行われていた。ところが、コロナ禍での入国禁止措置や国内での外出禁止措置など移動制限が発令され、オフショア・リスクを脅威とした欧米諸国のコールセンターは、一斉に「オンショア化」へと舵を切った。
*フォロー・ザ・サンとは、「太陽をおいかけるように」という意味で、世界中の拠点を連携しながら24時間365日のサポート体制を構築すること。
これは見方を変えれば、オフショアで運営委託をしていたBPOベンダーから、いざという時には自力でコントロール可能な国内自社センターへの回帰、すなわち「インハウス化」が進んだといえる。BPOリスク、とりわけ海外BPOへの依存の解消が可及的速やかに必要だと見られたのだ。
とはいえオンショア化、インハウス化を目指したとしても、現在の移動制限が多い状況で、国内のセンター規模を急増させることは容易ではない。センターに通勤するオペレータにとって、「コールセンター」そのものがリスク要素であることには日本も欧米も変わりはない。
そこで、欧米のセンター・マネジメントは躊躇なく「在宅エージェント化」に舵を切った。いわゆる“ホームショア”化を一気に推し進めたのだ。有事とはいえ、オンショア化、インハウス化、ホームショア化をわずか四半期で実現してしまった彼らの実行力には脱帽する。
もちろん優れたマネジメントが存在する先進コールセンター企業から順に実現されつつある状況なので、すべてのセンターで実現しているわけではない。移行は雪崩を打って進んでいる最中だ。これを裏付けるように、NACC(National Academy of Call Center:非営利団体)が加盟各社を対象に4月に調査したレポートでは、最も注目しているトピックは「在宅エージェント」であり、回答企業の52%が「今後も在宅エージェントを増やす」と回答している。「在宅エージェントを減らす」と回答した企業はわずか5%である。
コロナ渦の欧米で
在宅エージェントが進んだ理由
なぜ、欧米のコールセンターでは一気に在宅エージェント化を進めることができたのだろうか?
それは、前述のリスク要素を解消する唯一の施策は在宅ワークであり、すべての業種において社内組織の在宅ワークが機能することが証明されている以上、コールセンターの運営においても必要不可避な事業継続施策であることをセンター責任者も経営層も理解しているからである。また、これまでの20年におよぶ在宅エージェントを組み入れた運営実績が業界全体でシェアされているなど、具体的な方法論の蓄積と現場運用の知見があるためだ。
結果、コロナ以前の在宅エージェント比率は、おしなべて20%程度だったものが今年の第1四半期で一挙に90%以上となった。安定的な継続運営を必須要件とするコールセンターでは、クラウドソリューションが一般化していたこともあって、リスクを最小化する在宅エージェント運営を戦略の機軸に据えたのだった。
これによってコロナ禍中であってもコールセンターの安定稼働を実現したのが欧米の実態である。参考までに、以下に米国における在宅エージェントの実態をまとめている。
在宅エージェントが進んでいる業種 | 金融(例:サントラスト銀行はコロナ以前に既に40%在宅) |
ホテル(例:ハイアットはコロナ以前に既に40%在宅) | |
看護師、介護等ヘルスケア | |
BPOベンダー(3-5社は100%在宅、在宅専門チームを持つベンダーも多い) | |
Eコマース(アマゾンは2000年当時でも15%の在宅エージェントが稼働) | |
在宅エージェントが行う業務 | 従来の伝統的なコールセンター運営になじみがない業種の方(例、看護師) |
徹底的なホスピタリティを求められる業務 | |
基本的なレベルのサービス | |
中程度のテクニカルサービス | |
在宅エージェントが対応するチャネル | インバウンド電話 |
Eメール | |
チャット | |
SNS | |
在宅エージェント対応が進んでいる企業 | 前述に加えて、 シスコ 25%, ユナイテッドヘルスケア 75%等 |
BPOベンダーはおしなべて在宅エージェント化率が高い | |
在宅エージェント化の目的 | 事業承継(BCP) |
優秀なエージェントを確保するため | |
在宅エージェントの雇用形態 | パートタイマー |
在宅エージェントに要求されるスキル | 重軽に関わらずあらゆるスキル |
在宅エージェントとして働くエージェントの勤続年数 | (A)コールセンターでの勤務系経験の長いベテラン・エージェント |
(B)コールセンターでの勤務系経験のない新人エージェント | |
傾向としては(B)が多い | |
センター勤務者との給与比較 | 若干低い |
在宅ワークに要求される環境 | 扉があり独立した部屋、有線インターネット等 |
在宅エージェントがカバーする時間帯 | 週末、夜間、祝日対応が多かったが今や基本的にはあらゆるシフトに対応 |
マネジメントに要求される要素 | メンタルケア、セキュリティ遵守、トレーニング、チャット、褒賞等あらゆる分野での配慮が必要 |
その他 | コロナ以前は220万エージェント人口の内20%が在宅。3月末現在では正確な調査はされていないが90%に達していると推定される。 |
日本出遅れの原因は
戦略、スペシャリスト不在、ITの活用不足
コンタクトの自動化対応やAI支援などの領域では、日本は欧米先進センターに遅れること1~2年程度とみていたが、今回のリスク対策の実態を勘案すると、在宅率90%を達成するには5~6年はかかるのではないかと思える。
ギャップの最大の原因は、専門性を有するセンター責任者やスペシャリストの存在がひとつ。そして、もうひとつが高い自由度のもとでセキュリティやITリソースなどを活かす現場の能力差であろう。また、経営層も含めたマネジメントの明確な戦略決定がカギとなるが、そもそもこれが心もとない状況である。
とはいえ既に海外にはお手本が存在するので、これからはいかに早くキャッチアップするかが日本のコールセンター業界の真価が問われるところだ。
コールセンターが追及すべき本質
コロナ禍以降、多くのセンターでは想定を超えるコンタクトの量が記録されただけではなく、想定していた問い合わせ内容ではないコンタクトが押し寄せ、想定していたルールやプロセスが機能しない事態となり、各社パニックに見舞われた。オムニチャネルや自動化を進めてきたセンターは多いが、コロナの危機に際して自動化手段で納得する顧客は少なく、システムの隙をかいくぐってオペレータと会話や対話をすることを望むケースが大半を占める。
決まったプロセスのトレーニングだけでは、危機状態の感情的なコンタクトに対応できないことも明らかになり、ナレッジの限界が露呈した。
疲弊するオペレータには心理的ケアが必要となり、コールセンターとして「人でしかできない応対」とは何か、「人がやるべきコンタクトに集中できる仕組み」はどのようなものであるかという、「CSの本質」の重要性を改めて認識することになった。
そもそも安心・安全が確保されてこその顧客対応業務である。まずは移動制限があっても問題なく稼働できる在宅ワークの仕組みを整えること、とりあえずは運用できる環境を作った上で、追い求めるべき業務プロセスと効率・品質の議論をする優先順序を間違えてはならない。