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緊急寄稿! 新型コロナからCCを、社会を守る!

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緊急寄稿
新型コロナウイルスからコールセンター(CC)を、社会を守る
~小さなCCでも実行できる/しなければならない感染防止策~

 
クオリティ・ソーシング代表取締役 西島和彦

 コロナ禍に喘ぐコールセンター(以下CC)で働く人々の不安の声が世間の耳目を集め、胸が痛む。現在の状況下で現実的にどのように対応すればよいのか、事実確認とあわせて、CRM/CCにおける30年有余の自身の経験から、その現実的な解決策を提示し、まずは必要以上の不安を払拭するとともに、コールセンター関係者すべてに考え、行動する材料を提供したい(文中の数値は、すべて5月5日現在、報道などで確認できたもの)。

1.正しく恐れる

 まず、すべての対策の基本として確認しておきたいことは、ウイルスは足を持たないということだ。人が運ぶこと、たとえ皮膚に付着しても感染せず、付着物から手指などを経由して、目・鼻・口の粘膜を侵入口として人に感染することをしっかりと再確認する必要がある。つまり、侵入口を防御すれば感染しないということだ。
 一方、未だウイルスの確たる正体が不明で、対応策も手探りの状況だけに、善意からであっても、必要以上に恐怖を煽る(またはその情報に戦く)ことは、合理的行動を阻害することになることを心したい。

2.CCでの感染例

 報道発表から確認できた国内CCでの感染例は、4月中旬までと、それ以降では様相が大きく異なる。前者の期間では、複数名が感染したのは東京・中野区のセンター10名のみだ。しかも、同センターのプレス発表によれば、主な感染スポットは職場外での社員同士のプライベートな活動によるものであり、また、他の事例もイベント、家族などにより感染しており、CCが感染源と特定されたケースは、少なくとも報道からは認められなかった。

 だが、ある札幌のセンターでは、連日じわじわと感染者が増え、ついには17名におよび、複数名の感染者を出している大阪・京都のセンターを含め、極めて憂慮すべき事態が懸念される。とくに札幌センターは、写真と報道の従業員証言で判断する限り、各コミュニケータ間の仕切り板もなく、感染源になっている可能性が否定できない。

 CCが危険な職場だと印象付けたのは、何といっても韓国ソウルの損保コールセンターで、家族を含めて102名の感染が3月8日に判明したからである。これは、韓国をコロナ禍に巻き込んだ元凶とされるテグの新興宗教信者数名が、10日ほど症状があったにもかかわらず、出勤を続けたことが発端となったといわれる。韓国のCCを覗いたことがある人は分かっていただけると思うが、アウトバウンドのセンター内は、耳を覆う大音響に驚かされる。多くはコミッション制(最低賃金+歩合制)の彼女/彼らは、まさに口角泡を飛ばして電話の向こうの人を説得しているのだ。即ち、3密に加えて飛沫の貯蔵庫となっているのだから、感染者が一人でもいたら大変である。さらに当該センターの写真を見て驚いた。パーティションはあるが、日本の多くのセンターと同様にお洒落で低い(おそらく高さ30~40センチ程度)。これでは飛沫は防げない。集団感染後、金融投資協会のガイドラインには、マスク着用のままの応対のほか、パーティションの高さは60センチ以上と明記された。

3.3密の現場を“ステイホーム”より安全にする方法

 3密対策を中心としたCC運営については、さまざまな指針・提言などがある。各センターが置かれた状況により取捨選択し自らの対応策を策定していただきたいが、大原則はCC内をグリーンゾーン(非感染圏)にいかにして保つかである。ニューヨークタイムズに掲載されたコロナ危険職種にはコミュニケータは幸いにして入っていない。交通機関やレストランの従業員は、不特定多数の人と接する。だが、CCは限られた空間で特定の人としか接しない。その場をクリーンに保てば、感染は防止できる道理だ。

 一方で、報道されるような日本国中の現場の悲鳴・不安は、容易に理解できる。そこで大事なのは、簡単でいずれのセンターでも容易に実行できる有効な感染防止策を、しっかりと実行することだ。

 まず、センター内にウイルスを持ち込まないこと。多くのセンターで実施しているのは、入口での非接触検温だ。体調不良者を出社させてはいけない。さらに、センター入口に消毒マットを置いて、靴の除菌を行うのがよい。何故なら、院内感染が起こるのは、一つはタブレットの使いまわし、さらには患者のウイルスが蔓延している床を踏み歩いた靴を不用意に手で触り、体内への侵入を許してしまうからだ。

 次に、センターに入室する前に入念に手洗い、うがいをする。ドアノブやエレベータのボタンなど、共有箇所の除菌も大事だ。意外と盲点なのは、トイレットの便座。やはり、除菌スプレーなど衛生用品が必要だろう。

 ヘッドセット・PC・マウス・キーボード、さらには机・椅子などの共有が目の敵にされる。しかし、予算もあり、何よりそれらの機器類は、突如起きた多くの企業の在宅勤務シフトで品薄状態だという。その状況で、声高に専用化を叫ぶのはやめよう。コミュニケータの不安を煽る結果になるだけだ。その代わり、徹底した除菌を励行したい。品薄のアルコールでなくとも、次亜塩素酸水(ブリーチなどの漂白剤)で効果があることは、香港大研究者が実証済みだ。機器だけでなく、ブース内をしっかりと清拭することが大事だ。

 定期的な換気も求められているが、高層ビル内のセンターでは「窓が開かない」との不安の声がある。しかし、近代的なビルでは換気も計算されているので、ビル管理と協議・対応したい。高性能の抗菌フィルターを使えば、なお、効果的であろう。抗菌といえば、エレベータのボタンに抗菌シールを貼っている例も見た。もっと言えば、センター全体を机の中まで隅々、一晩で抗菌化するサービスもある。東京周辺であれば、㎡当たり2500円程度で、効力は1年間もつ。月に直せば、200円程度の賃料増と考えることもできる。コミュニケータに与える安心感を思えば、金額以上に価値があるだろう。

 ライフライン業務を中心に業務削減もままならず、従って要員・レイアウトの弾力化が難しいセンターも多いはずだ。だが、諦めてはいけない。目的は飛沫防止なのだから、最近のスーパーマーケットのレジなどでよく見かけるビニールシートをブースの間仕切りに使えばよい。もちろん、パーティションでもいいが、ここに落とし穴がある。最近のセンターのパーティションは概ね低すぎる。韓国CCの事例でも触れた通り、高さは60センチ以上を確保したい。

 マスクも必ず着用したい。声が籠ることを嫌う向きもあるが、飛沫防止には有効である。入電時のIVRアナウンスで「マスクを着用して応対」と伝え、顧客の理解を得るのがよいだろう(マスク着用に安心して、ブースの仕切りを怠っているケースもあるが、マスクは、あくまでも補助的な手段で、それに頼ってはならない)。

4.センター到着前のリスクを回避

 センター内は、かなりの程度までクリーン化できるが、エッセンシャル・ワーカー共通の最大のリスクは通勤経路である。韓国CCで集団感染が発見された際は、その職場周辺はもちろんのこと、勤務者の通勤経路、その車両、駅施設なども消毒が施されたが、我々は自衛するしかない。

 少し緩和されたとはいえ、まだまだ混雑する時間帯もあるのに、通勤経路が感染源という報道は見たことがない。推測するに通勤時の公共交通車内は、基本的に沈黙の世界であり、従って飛沫も飛ばず、ほとんどの人がマスクをしていることが功を奏しているのかもしれない。「不急な会話を慎む」「立っている人は、(例えば)進行方向を向く」などの混雑時マナーの車内アナウンスが必要かもしれない。実は、筆者は外出時の自衛グッズとして、(百均ショップの)手袋と花粉症防止用眼鏡を着用している。眼鏡はマスク同様、菌に触れた指が目の粘膜に接触するのを防いでくれる。

 通勤時のリスク回避に大きな効果があるのが、時差出勤であろう。各鉄道とも時間帯別の混雑状況のコロナ禍以降の推移を発表していないので、どの時間帯での出社が効果的かは自身で試すしかないが、例えば10時出社にすれば、実感として効果が感じられるはずだ。

 究極の通勤リスク回避策は、在宅エージェントの活用であることは、あらためて言うまでもない。在宅化できない理由に情報セキュリティを挙げるのは、自身の勉強不足を露呈しているだけと恥じるべきであろう。DaaS(Desktop-as-a-Service)を活用すれば、容易に在宅端末を事実上のシンクライアント化できる。画面をデジタルカメラなどで撮影するのを抑止するためには、無料のハングアウトなどのコミュニケーション・ツールのビデオ機能を常時オンにすればよいだろう。

 CCに限らず、一気に在宅勤務が増えた結果、VPN機器調達がネックになっているようだが、これもソフト的にエンドツーエンドを特殊な通信レイヤーでカバーすれば、VPN同様のセキュリティを同等以下の費用で実現可能だ(つい最近も、この方式で在宅CCをスタートさせた事例もある)。そもそも、在宅エージェントを可能にするCCシステムも、クラウド利用で短期間で実現できる(東京都のコロナ対策在宅CC25席は、1週間で立上げ、その後、倍々の増席で100席となった)。

 さらに、これらのシステムは、期間限定で多くの企業で無償提供されている。PCや(受電用とした場合の)スマートフォン、ルーターが現下の情勢で調達困難というが、個人の機器を利用するBYOD(Bring Your Own Device)は、欧米でその利用率が5~7割に達しており、この機にBYODに躊躇することもなかろう。

 もっと言えば、在宅の壁は従業員側にも存在する。「家に仕事を持ち込まない」「執務環境が整わない」(後者の理由は若干の調整を要する)などが主な理由だが、現在の危機は、彼らの壁を容易に取り除いてくれるだろう。とくに日本の住居環境を考えると生活雑音などが気になるところだが、工事現場でも使われる皮膚伝導マイクを利用すれば、周囲の雑音はカットできる(性能は確認していないが、安いものは数千円もしない)。

 全国的・世界的パンデミックだから、地方センターも無力であるとする説明は、必ずしも当を得ていない。地方センターでは、6~8割が自動車通勤といった話もよくあることだ。つまり、これらのセンターでは通勤リスクが大幅に回避できる。センター立地などにより、事情もそれぞれに異なろう。サテライトオフィスを含め、これらのセンター活用も図りたい。

5.危機下でのセンター運営の勘どころ

 他チャネルの利用、当該業務の一時休止を含め、対応が必要な業務を極力絞り込むのは異論のないところだろう。そして、リソースが割けない業務に生半可に対応してはいけない。これは対応すると決めた業務にも言えることだが、サービスレベルは、業務量と要員のバランスの中で一定以上の水準を維持すべきだからだ。応答率が低下したセンターの惨状を思い浮かべるとよい。1件の電話を終話すると同時に次の呼が入電する。そして、長く待たされたユーザーの苛立ちが、コミュニケータを苦しめ、疲弊させるのだ。まさにセンター崩壊の道を歩むことになる。

 従って対応すると決めた業務には、可能な限りリソースを振り向けてほしい。通勤リスク回避効果とあわせ、時短(例えば10~15時)対応とし、その時間帯は休止業務の要員や間接部門スタッフなども動員して、むしろ増員体制で臨めれば理想的だ。もちろん、この体制に持ち込むには社内外の関係者の理解と協力が不可欠だ。

 非常時こそ、マネージャーの覚悟と行動力がとくに問われる。そもそも、インターネットで悲鳴を上げ、不満を呟くのは、マネージャーに相談する価値がないと思われていることの反映ではなかろうか。コミュニケータの不安を取り除き、顧客へのサービス体制を整えることは、マネージャーの責務であろう。

 最後になったが、CC従事者へのお願いである。今や社会のインフラとなったCCでの職責を自覚し、体調を整え執務環境の安全に意を払いつつ、健康に過ごしていただきたい。今、洋の東西を問わず、時間帯の差こそあれ、「Clap for Carers」(クラップ・フォー・ケアラーズ)として拍手でケアをする人達への感謝を表す動きが広まっている。コールセンターに従事する皆様は、カスタマケアを担っており、まさしく、ケアラーの一人なのだ。


著者:プロフィール
クオリティ・ソーシング代表取締役 西島和彦
 メガバンク勤務を経て1998年以降、CRM/CCインディペンダント・コンサルとして日米中韓台等で活躍。同年創刊の本誌創刊号から200号まで「コンタクトセンター運用の勘どころ」を連載し、本誌永久フェロー。ワンポイント顧問等幅広く活動中。メール:qs@qsc.jp




 

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