ロイヤルティと満足はレイヤーが違う
ISラボ 代表 渡部弘毅
昨今、ロイヤルティという言葉が多く使われるようになり、「時代は顧客満足からロイヤルティ向上に変わった」と、誇張してしまう、わたちゃんです。しかし、顧客満足とロイヤルティを同列で比較することは、実は正しくありません。
ロイヤルティとは、お客様の企業や商品に対する愛着度合いです。平たく言うと、お客様が企業、あるいは企業の商品に対してずっと付き合いたい、使い続けたい、買い続けたいと思う気持ちです。あるいは友人や家族に企業や商品を推奨したい気持ちでもあります。
愛着度合いは、お客様と企業や商品の関係における数多くの満足の結果で生まれます。ひとつの満足ではなく、「数多くの満足の集積」で愛着度合いが高まります。もちろん、魅力的な商品のデザインでお客様を虜(とりこ)にするケースもありますが、それは「数多くの満足の中で、とくにロイヤルティに大きく影響しているのがデザイン」と判断できます。実際には、機能や店舗での接客など、他の満足も考慮する必要があります。
そして、ロイヤルティ向上施策を立案するには、これら数多くの満足の要因を明らかにすることが重要です。この要因を「ロイヤルティドライバー」と言います。すなわち、ひとつのロイヤルティは数多くのロイヤルティドライバーの満足の集積から形成され、その影響力はロイヤルティドライバーによって違う、ということです。
数多くあるロイヤルティドライバーを詳細に見ると、「基本価値」と「体験価値」に分類できます。
基本価値とは、商品そのものの価値でロイヤルティにとっては必須条件です。小売業で言うと、品揃えや商品の品質、機能、デザイン、価格といった項目です。クラウドサービスで言うと、プロダクトの先進性や機能性、操作性やカスタマイズ性といった項目です。言い換えれば、お客様に提供する商品を磨き、満足を高めることによって基本価値を向上させることになります。
一方、体験価値とは、お客様が商品を選択・購入し使用する過程のプロセス上での価値です。一般的に言われるカスタマーエクスペリエンスの向上とは、この価値を向上させることを意味します。小売業で言うと、企業や商品の情報収集、購買体験時の店舗接客、支払い処理、ネットでの商品閲覧、使用時のサポートといった項目です。クラウドサービスでは、オンボーディング(導入)時の導入打ち合わせ、設定、オンゴーイング(運用)時のテクニカルサポート、トラブル対応といった項目です。つまり、お客様の商品購入や使用を手助けするサービスプロセスを磨き、満足を高めることによって体験価値を向上させることが可能です。
したがって、顧客満足とロイヤルティは同レベルでどっちを選ぶといった比較対象ではありません。レイヤーが違うのです。ロイヤルティが上位レイヤーで、それを支えるのが数多くのロイヤルティドライバーの満足です。ですから、顧客満足を高める努力が不要になることは、永遠にないのです。
図 ロイヤルティを支える複数の満足