【導入・選定ガイド】Hints & Tips
品質・生産性・経営貢献──
3大課題にシステム活用で挑む!
コールセンター運営者を悩ませ続ける、『品質改善』『生産性向上』『経営貢献』という3つの課題。求められる役割が高度化する現在、スタッフのスキル/マインド強化だけでは限界があり、ITによるオペレーション支援が以前にも増して重要になっている。3大課題を乗り越えるには、どのようなITシステムを活用すればいいのか、事例からポイントを探る。(記事中の事例はコールセンタージャパン誌掲載当時の情報)
コールセンターに求められる役割がますます高度化している。
顧客の行動は“スマホファースト”に移行し、商品やサービスについて疑問があれば、インターネットを検索して自己解決を試み、問題解決しない場合に初めて企業に問い合わせてくる。その際の手段も電話ではなく、チャットやメッセンジャーなどのWebチャネルの優先度が高い。
また有人対応では、すでに予備知識を得た顧客からの問い合わせに応対することになる。オペレータには従来以上に知識やスキルが求められ、業務支援のための、FAQをはじめとしたナレッジベースの存在が、より重要視されるようになる。
こうしたオムニチャネル化の進行、そして“満足以上の体験”を目指すカスタマー・エクスペリエンス(CX)の考え方の浸透で、コールセンター・マネジメントは重大な転機を迎えている。即ち、多くの人材を集めて育成するという、これまでの人海戦術型のマネジメントは、もはや限界が近く、IT活用なしでは立ち行かなくなるということだ。今後は、システムによるオペレーションの自動化やオペレータ/SVの業務支援が、業種や規模問わず不可欠となる。
図1は、顧客ロイヤルティの醸成につながる要素を整理したものだ。センター運営の成果としては、上段3つの『効率化/生産性向上』『品質改善』『プロフィット』がある。これを実現する手段として、中下段の5つの要素がある。このうち『IT活用』に着目し、事例企業の取り組みから、3つの成果(=3大課題)を成し遂げるヒントを探る。
図1 顧客ロイヤルティ醸成につながる「3つの成果」
『品質改善』にIT活用で挑む!
顧客接点の『品質改善』を実現するソリューションを図2にまとめる。
コンタクトセンタープラットフォームは、コールリーズン(顧客の目的)に応じて的確なスキルを持つオペレータにつなぐ基盤となる。とくにIVRのメニュー構成は、それだけで顧客満足度を左右するため細心の注意を払いたい。Webコラボレーションは、顧客とPC画面を共有しながら応対する。アプリケーショの操作や契約書類の記入方法など、音声だけでは伝わり難い内容を説明する際に有効で、生産性向上にもつながる。ボイスロギングは、通話録音データをもとにオペレータの応対内容を評価し、フィードバック&改善することで品質の底上げを図る。
図2 応対品質向上を実現するソリューション
品質向上につながるIT活用について、具体的な事例を見てみよう。
人工知能で最適解をサジェスト
みずほ銀行・他
近年は人工知能を活用し、問い合わせに対して迅速かつ的確に回答することでCS向上を図る企業もある。みずほ銀行をはじめとしたメガバンクや大手損害保険会社では、『IBM Watson』を導入、音声認識技術と人工知能を組み合わせたオペレータ支援システムを活用している。オペレータと顧客の対話を音声認識でテキスト化し、自然言語処理で意図解釈を図る。これをもとにナレッジベースから最適と思われる回答候補をサジェストし、オペレータが回答する。現在、金融業界のみならず、製薬・鉄道業界などでも同様の仕組みが導入され始めている。
Webのペインポイントを把握
スカパー・カスタマーリレーションズ
Webチャネルでは“顧客がやりたいこと”を滞りなくできることがCS向上の条件になる。つまりコンテンツ上の使いにくいペインポイント(痛点)を解消していく取り組みが必要だ。
有料多チャンネル放送「スカパー!」のカスタマーセンターでは、Webサイトでの契約プロセスにおける途中離脱をITで防止する。具体的には、TISのWeb・電話連動型ソリューション『Callクレヨン』を活用。これはWeb上に設置した「電話ボタン」をクリックしてセンターに問い合わせできる仕組みで、手続きに困った際に手軽に利用できる。センター側では、顧客が参照したページなどの行動情報を一緒に受け取れる。これにより、オペレータは顧客の“つまずいた理由”などを的確に確認でき、迅速な問題解決を図れる。
当然ながら、問い合わせ内容は収集・分析し、顧客がつまずきやすい箇所を洗い出して、Webコンテンツの改善に活かしている。
ベテランの知見をITで共有
ケンコー・トキナー
ケンコー・トキナーは、旧コニカミノルタのカメラ事業のアフターサポートを行う。問い合わせは、新製品から数十年前に発売した商品に関するものまで幅広く、内容も多岐にわたる。回答には製品知識のみならず、使用環境や被写体とレンズの組み合わせなど写真技術に関する知識・経験が必要なものも多く、ベテラン社員でないと回答できないため、コールバックが頻発するなどの課題を抱えていた。
そこで富士電機ITソリューションのCRM統合ソリューション『CSStream』を使ったナレッジ構築に着手。応対履歴や製品情報、修理受付・進捗情報などを一元管理するほか、回答支援のため、ベテラン社員が持つ個人の知識・経験をドキュメント化して蓄積し、体系立てて利用できるようにした。結果、対応時間は約3割短縮でき、応答率の向上につながった。さらに蓄積したナレッジは、経営層、製品開発部門をはじめ社内共有し、製品開発や業務改善などに活かしている。
表1 『品質改善』にIT活用で挑む
社名 | IT活用 | 抱えていた課題 | 施策のポイント |
---|---|---|---|
みずほ銀行・他 | 音声認識 人工知能 | 問い合わせ内容が複雑化するに伴い、参照すべき情報(FAQ・商品情報・社内マニュアルなど)が多岐にわたり、検索・保留などに時間を要していた。また回答内容が平準化できていなかった | (1)問い合わせ内容を音声認識でテキスト化。自然言語処理で意図解釈を図り、複数のナレッジベースから適切と思われる回答候補を提示する (2)オペレータは回答候補が“正解”か評価。この正解率をもとに回答候補の精度を高める (3)回答が見つからなかった場合は新たに情報を追加して最適化を図る (4)蓄積した応対データをもとに公開FAQを改善し、自己解決率を高める |
スカパー・ カスタマー リレーションズ | Web コミュニ ケーション | 有料多チャンネル放送「スカパー!」のカスタマーセンターを運営。Webサイトでの契約申し込みに関して、使い勝手の向上、途中離脱の防止が求められていた | Web・電話連動型ソリューションを使い、Webサイトから手軽に問い合わせできるようにした。Web上での行動履歴を把握できるため、オペレータは顧客がつまずいたポイントを踏まえながらスムーズに案内可能。ペインポイント(痛点)を開発部門に報告することで、Webコンテンツの品質(使い勝手)の向上にも寄与している |
ケンコー・ トキナー | FAQ/ ナレッジ システム | カメラのアフターサポートを実施。新製品から数十年前の商品まで対象は多岐にわたり、ベテランオペレータでないと対応できない案件が増えていた | CRM統合ソリューションを利用し、応対履歴、製品情報、修理受付・進捗情報などを一元管理するナレッジを構築。特定条件で起きる不具合とその対処方法など、個人の経験や知識などもドキュメント化し、体系立てて利用できるようにした。蓄積したナレッジは全社利用でき、製品開発や業務改善などにも活かす |
『生産性向上』にIT活用で挑む!
『生産性向上』を実現するソリューションを図3にまとめる。
生産性向上には、(1)自己解決を促す、(2)応対効率化を図る、(3)要員配置の最適化などの手法がある。
(1)の自己解決の促進は、公開FAQやバーチャルアシスタントなどを利用する。近年は音声認識IVRと人工知能を組み合わせた電話での自動化ソリューションも提案されている。(2)の応対効率化は、社内FAQの活用が一般的。メール処理システムでも、テンプレートやFAQで回答作成支援できるものが多い。テクニカルサポートなど口頭では説明が難しい対応は、Webコラボレーションツール、WebRTCなどによる視覚的サポートが有効だ。(3)の要員最適化はWFMシステムを利用する。まだまだ経験と勘で呼量予測を行ってシフトを組むセンターが多いが、オムニチャネル時代では、チャネルごとの問い合わせ件数予測やスタッフのスキル管理が重要となるため、システムによる支援が不可欠となる。これはマネジメントの生産性向上にもつながる。
図3 生産性向上を実現するソリューション
生産性向上を実現するIT活用について、具体的な事例を見る。
定量評価によるFAQ改善を継続
みずほ銀行
顧客行動がデジタルシフトしている現在は、Web上で問題を自己解決できる方法をきちんと検討すべきだ。CX向上に貢献するとともに、問い合わせ削減にもつながる。
みずほ銀行は、オウケイウェイヴ『OKBIZ. for FAQ/Helpdesk Support」を導入し、個人向け金融商品のFAQコンテンツの充実を図っている。システム活用することで、定量的な判断でFAQをブラッシュアップできる。例えば、解決率の低いFAQを優先して見直す、検索しても有効なFAQがヒットしない項目はFAQを追加するなどだ。同社では、専任チームが月次でFAQ利用状況をレポートし、改善サイクルを回している。
顧客側の利便性も追求する。FAQと連動した問い合わせフォームを用意し、顧客がフォームに質問を入力すると適切と思われるFAQをサジェストして提示する。これで問題解決できれば、センターの効率化にもつながる。問題が解決しなかった場合は問い合わせとなり、オペレータが回答作成する。この際、応対システムで社内ナレッジを使って回答作成を支援し、回答内容は新たなFAQ素材として蓄積する。実際の問い合わせに即したFAQを用意できるため、より顧客の利便性を高めていける。
チャットボットで自己解決を促す
アスクル/LOHACO
FAQ検索のインタフェースとして、チャットボットを用意する企業もある。人工知能の一種である自然言語処理技術や対話エンジンを活用し、テキストで会話しながら顧客の目的達成まで誘導するシステムで、バーチャルオペレータとも呼ばれる。FAQから最適な回答を提示し、あるいは適切なWebページに自動遷移することで自己解決を促す。
個人向けに日用雑貨・食品・飲料などの通販サイトを運営するアスクルの「LOHACO」では、りらいあコミュニケーションズの『Virtual Agent』を採用し、問い合わせの3分の1を自己解決でカバー。この効率化で生まれた時間を電話窓口の応対品質向上に振り向け、電話・Webチャネル両方の顧客満足度向上に努めている。
メール対応の生産性とCSを両立
GMOメディア
ポイントサイトやソーシャルメディアなど、一般消費者向けインターネットサービスを運営するGMOメディアでは、メール対応の生産性と顧客満足の両立が課題だった。
そこでカスタマイズ性の高い、メール共有・管理システム『Zendesk』を導入し、応対画面を作り込んだ。具体的には、顧客の利用サービスやFAQ参照履歴を自動表示し、回答作成に必要な情報収集の手間を省いた。とくに利用サービスごとに参照すべき情報を個別カスタマイズしており、迅速な回答作成を可能とした。そのうえで、文面には“顧客への気遣い”を盛り込み、テンプレートによる冷たさなどを感じさせないようにした。
業務効率化は、単なる生産性向上だけでなく、顧客に配慮する時間を作ることにもつなげている。
30分単位の呼量予測で最適配置
三井住友カード
三井住友カードは、CX実践に向けてコールセンター改革を推進中だ。その一環でミライトのWFMシステム『Casting Table2.0』を導入した。
クレジットカード利用率は、経済状況など外的要因に大きく左右されるため、コールセンターの呼量予測は容易ではない。このため、長年の経験を持つスペシャリストが“職人技”で算出していた。また要員配置はESに配慮した結果、シフトパターンが20種類以上あり、マネジメントにはかなりの労力がかかっていた。
新システムは、こうした業務負荷を軽減する。独自の呼量予測ロジックとシフティング機能により、シフト作成工数を大幅に削減。管理者本来のフロアマネジメント業務に集中できる環境を整えた。また、30分単位で呼量予測できることから、閑散時の研修をより計画的に行えるようになった。マネジメントの工数削減に加え、オペレータのスキルアップと最適配置により、業務全体の生産性向上につながっている。
表2 『生産性向上』にIT活用で挑む
社名 | IT活用 | 抱えていた課題 | 施策のポイント |
---|---|---|---|
みずほ銀行 | FAQ/ ナレッジ システム | オムニチャネル化に伴い、非対面チャネルの顧客満足度向上を重視。24時間いつでも自己解決できる仕組みが必要だった。またコールセンターの業務効率化も検討要素だった | (1)体制とシステムの両面からFAQの充実を図る。FAQシステムを導入し、コンテンツの利用状況を定量評価、専任チームが月次でレビューし、FAQのブラッシュアップを行う仕組みを構築 (2)顧客の利便性追求では、問い合わせフォームに質問を入力すると適切なFAQをサジェストするようにし、回答を待つ時間を削減。同時にコールセンターの業務も効率化した (3)問い合わせ内容を分析し、FAQの精度向上につなげる |
アスクル/ LOHACO | バーチャル アシスタント | 個人向け通販サイト「LOHACO」の顧客サポートはメールが主体。しかし顧客増に伴い、電話窓口の開設が望まれた。増員せず、電話対応を開始するには自己解決促進による業務効率化が必要だった | FAQ検索のインタフェースにチャットボットを利用。テキストで会話しながら適切なFAQやWebコンテンツまで顧客を誘導する。これによるコールセンターの業務効率化で生まれた時間を電話窓口の応対品質向上につなげ、電話・Webチャネルの両方の顧客満足度向上に努める |
GMO メディア | メール処理 システム | メール対応は効率化重視でテンプレートを多用すると冷たい印象を与えてCSに影響が出る。生産性を向上しつつ、顧客満足を追求する仕組みが必要だった | カスタマイズ性の高いメール共有・管理システムを導入。サービスごとに回答作成に必要な情報を自動表示するなど、情報収集の手間を省いて生産性を向上。そのうえで、生まれた時間を使い、顧客に配慮した文面を作成することで、顧客満足も追求している |
三井住友 カード | WFM システム | 経済状況など外的要因に大きく左右される呼量を予測するのは、長年の経験を積んだ“職人技”が必要で、マネジメントにもかなりの労力を要していた | WFMシステムを導入し、呼量予測からシフティングまでの工数を大幅に削減。30分単位の呼量予測から、閑散時の研修をより計画的に実施。マネジメントの工数削減に加えて、オペレータのスキルアップと最適配置により、業務全体の生産性向上につながった |
『経営貢献』にIT活用で挑む!
『経営貢献』を実現するソリューションを図4にまとめる。
コールセンターにおける経営貢献にはさまざまな形態がある。例えば、応対品質の向上は顧客満足度を高め、顧客ロイヤルティの醸成が将来的に収益につながる可能性がある。また生産性向上によるコスト削減も、間接的な経営貢献といえる。
わかりやすいのは、やはり契約獲得や来店誘導など収益に直結する施策だろう。この場合、オペレータの営業スキルなどが重要になるが、育成は一筋縄ではいかない。そこで人工知能を使って顧客にあった商品をオペレータにレコメンドし、セールス支援する企業もある。
図4 経営貢献を実現するソリューション
経営貢献につながるIT活用について、具体的な事例を紹介する。
AIが顧客ニーズ分析し商品推奨
IDOM
自動車買取販売のIDOM(旧ガリバーインターナショナル)では、全国店舗で買い取った中古車情報をWeb上で参照しながらチャットで購入相談・来店予約ができるサービスを提供している。このオペレータ支援に人工知能を活用、顧客ニーズに合致した中古車を迅速に探して提案することで来店誘導率を向上させている。
支援システムは、オペレータの質問や提案に対する顧客の反応をもとに適合する車種を特定する。具体的には、燃費やデザイン、走行性能など自動車選びのポイントについてのアンケート回答状況や、提案に対する評価(ネガ/ポジ)の選択状況から顧客の好みやこだわりを判断。格好よさ、乗り心地などの選択軸ごとに重要度を定量評価し、“欲しい自動車像”を特定する。そのうえで、車種ごとに蓄積しているユーザーレビューをもとにスコアリングし、顧客の好みに近いと思われる車種をレコメンドする仕組みだ。この導入により、チャット窓口の生産性は1.5倍に向上。オペレータのスキルや経験に依存せず、的確に提案できるため、来店誘導率および成約率は徐々に改善しているという。
チャットサポートで離脱防止
ミュゼプラチナム
Web上での受注・予約受付は効率的である一方、申し込み時の判断プロセスに介入できないという課題がある。結果、電話注文より購入単価が安くなったり、予約後にキャンセルされることも少なくない。また手続き中に気が変わって離脱される可能性もある。
美容脱毛サロンのミュゼプラチナムは、こうした事態を防ぐため、カウンセリング予約ページにチャットサポート機能を備えた。具体的には接客チャットツール『Chamo』を採用。予約ページで顧客がチャットボタンをクリックするか、同一ページに10秒以上滞在することでチャット招待のウインドウを立ち上げる。オペレータは、顧客のWeb上での行動履歴が把握できるため、何に困っているかを推察しながら対話できる。
回答は、業務知識をベースとした共通ナレッジの「テンプレート」のほか、オペレータ自身が蓄積した個別ナレッジの「My定型文」を組み合わせ、親しみを演出することが可能。比較的若い世代の女性が対象のため、親近感は重要なポイントになっている。
導入2カ月でチャットリクエストは1日300件以上、Web予約の来店率も着実に向上している。
PD活用で営業力を強化
フィナンシャル・エージェンシー
近年はライフスタイルの多様化などを背景に固定電話にかけても不在であることが多い。アウトバウンドコールによる営業も“無意味な発信”が増えて非効率を極める。
保険代理店事業を展開するフィナンシャル・エージェンシーは、OKIのコンタクトセンターシステム『CTstage6Mi』と、保険特化型CRMシステムを組み合わせ、プレディクティブ・ダイヤリング(PD)機能を利用した営業活動を推進している。
PDは、顧客の不在やビジー状態のコール数も予測したうえで、オペレータ数よりも多く発信できる効率性の高さが特徴。月間25万〜30万件のアウトバウンドコールを行う同社にとって、つながらない電話にオペレータを割り当てる非効率を排除できるメリットは大きい。導入後、コンタクト率は15ポイント向上した。
今後はレポーティング機能を活用して個々のオペレータの架電効率や通話時間を“見える化”し、研修や指導による生産性向上を図る計画だ。
分析ツールで顧客ニーズを可視化
日産自動車
お客様相談室や問い合わせ窓口で実践できる経営貢献として、VOC活動がある。顧客の声を収集・分析し、商品開発・改善や業務改革への気づきを得るものだ。実際、日々収集した顧客の声を分析し、知見を全社還流させている企業は多い。
日産自動車もその1社。SCSKと共同開発したテキスト分析ツールである「VOiC Finder」を活用し、1日に約1000件のVOCをリアルタイム分析している。開発の背景には、若者の自動車離れなどで新車販売が難しくなり、いかに既存オーナーをつなぎとめるかが課題だったからだ。
同ソリューションの分析エンジンは、対話内容から高精度で要点抽出を行う。自然言語に特化したアルゴリズムを採用しており、前後のコンテキストを含めて意味理解を行う。開発段階でテストを何度も繰り返し、同一のテキストからの要点抽出の精度が人間を上回るまでチューニング。このデータを開発部門に提示、“価値あり”というお墨付きで全社での利用が始まっている。これにより、VOCを反映した新車開発や現行車の改善につなげていく考えだ。
表3 『経営貢献』にIT活用で挑む
社名 | IT活用 | 企業&センター概要 | 施策のポイント |
---|---|---|---|
IDOM (旧ガリバー インター ナショナル) | 人工知能 | 中古車の購入相談をWeb上でチャットを使って実施。顧客のニーズをヒアリングし、最適な自動車を選んで提案するために時間を要していた。またベテランと新人のギャップも大きかった | 人工知能を活用、オペレータの質問や提案に対する顧客の反応をもとにニーズを判断し、合致する中古車を迅速に探して提案できる。来店誘導率が1.5倍に向上 |
ミュゼ プラチナム | チャット | 美容脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の運営。Webサイトでのカウンセリング予約に際して、接客による迷いの払拭、途中離脱の防止を求められた | 接客チャットツールを使い、顧客が悩んだり迷ったりした際に気軽に相談対応できる、Web上での接客を実現。業務知識の「テンプレート」のほか、オペレータ独自の「My定型文」を使い、親しみやすさを演出。安心して美容の悩みを相談できるようにしている |
フィナンシャル・ エージェンシー | アウト バウンド システム | 保険代理店事業を展開。アウトバウンドで営業活動を行うが、ライフスタイルの多様化などを背景に固定電話に電話しても不在であることが多く、効率的な架電が求められていた | プレディクティブ・ダイヤラーを利用。顧客の不在やビジー状態のコール数も予測したうえで発信業務を行い、効率的にオペレータにつなぐ。システム導入後、コンタクト率が15ポイント向上した |
日産自動車 | 分析 ツール | 若者の自動車離れなどを背景に新車販売が伸び悩む中、既存オーナーのニーズを的確に把握すべくVOC活動の高度化が必要だった | SCSKと共同開発したテキスト分析ツールを活用。独自の分析エンジンは、対話内容から高精度で要点抽出を行う。自然言語に特化したアルゴリズムを採用、前後のコンテキストを含めた意味理解を行い、顧客との対話からリアルタイムに要点を抽出できる。この情報をもとに、新車開発や現行車の改善につなげている |
これからのコールセンター運営では、IT活用がますます重要性を増してくる。センター長にとって、最適なシステム構築やプロダクト選定は、人材育成と同じくらい大切なミッションとなる。ぜひ本サイト「コールセンターのITさがし」を活用して情報収集し、自社にあったシステム構築に努めてほしい。